ブラインドサッカー — 2013/3/23 土曜日 at 14:10:14

【ブラインドサッカー】世界王者ブラジルと対戦した日本代表の課題と収穫

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パラリンピック3連覇中の王者ブラジルのエース、リカルド。華麗なプレーで観客を魅了した(撮影/吉村もと)

スコアは0-0。前半終了を知らせるホイッスルが鳴った瞬間、ベンチにいた新監督、魚住稿(こう)の顔から笑みがこぼれた。

3月20日、フットメッセ大宮で行われた、ブラインドサッカーのブラジル代表と日本代表の国際親善試合「さいたま市ノーマライゼーションカップ」。2016年リオ大会でパラリンピック初出場を目指す日本代表は、1-2で敗れたものの、パラリンピック3連覇中の強者相手に善戦し、守備面での成長と今後への可能性を示してみせた。

日本代表の自信となった前半の無失点

親善試合とはいえ、真剣勝負だ。日本選手の緊張感が伝わる中、試合は始まった。序盤から相手エースのリカルドに巧みなドリブルで左右に揺さぶりをかけられ、そのリカルドと威力のあるシュートを放つジェファーソンに次々と打ち込まれる。だが、ゴールキーパー佐藤大介、ディフェンスの要である田中章仁が体を張ったプレーで好セーブ。その田中と中盤の加藤健人、山口修一が連動してカバーする好守で、世界ナンバーワンプレーヤーの呼び声高いリカルドのゴールを許さない。日本はファールの累積「4」でブラジルに第2PKを与えたが、ブラジル代表セベリノのキックを佐藤が正面で見事に止め、危険な場面を乗り切った。

一方、オフェンスでは、トップの佐々木康裕にゴールスローがつながらず、なかなか好機を作れない。そんな中で途中出場したベテランの落合啓士がドリブルで抜け出し、相手ゴールキーパーと1対1になる場面もあったが、強烈なシュートを打つことができず、結局、両チーム無得点のまま試合を折り返した。

強者から奪った大きな1ゴール

ブラジルから歴史的1点をマークした川村。スピードと運動量が持ち味だ

前半を無失点で終える大きな目標を達成した日本は、フォワード、ゴールキーパーのメンバーを替えて後半戦をスタート。「他の選手も出場させて試したかった」と魚住監督は振り返る。メンバーを落とさないブラジルに対し、田中、加藤、川村怜(りょう)の3枚で必死に守るも、押し込められる場面が続き、日本のファールで次第にリズムを崩していく。すると、ブラジルのコーナーキックからボールを受けたリカルドが、ドリブルで切り込み左45度の角度からシュート。ついにゴールネットが揺れ、客席からため息が漏れた。さらにその直後、リカルドが弧を描くようなドリブルからシュートを放ち追加点。ブラジルが2点をリードする展開となった。

しかし、日本代表はこのままでは終わらなかった。
「立て続けに得点を許し、すごくショックだった」と言うMFの川村が、なんとかゴールをこじ開けようとスピードのあるドリブルで中央突破。左足で放ったシュートは、相手キーパーの股下を抜けてゴールネットへと吸い込まれた。

最近の国際大会でこそブラジルと対戦していなかったが、過去の対戦では0-7、0-4と完敗していた日本代表。これまで1点も獲らせてくれなかったブラジルから初めてもぎ取った1点に、選手も関係者も喜びを露わにした。

守備面での収穫

「日本は連携がいいチーム。今までもプレスの練習はしてきたけど、とくに後ろの3人のラインの作り方に力を入れて練習してきた。どこでボールに近づき、どこで選手に近づき、どこでラインを下げてボールを取るのか。コントロールを意識して練習してきたことが試合で出せました」

そう魚住が言う通り、3枚ディフェンスのバランスが光る試合だった。いままで日本がアジア王者の中国や欧米のチームとの対戦で苦戦していた、ゴール前にそびえ立つ守備の壁を、日本も試合で効果的に使えるようになったのだ。

2007年に代表に加入して以降、初めてブラジルと対戦した加藤は「リカルドやジェファーソンがハーフラインからボールを持って上がってくるところは、プレーがまったく途切れないので怖かったですね。でも、連携のスキを突かれてやられることはなかったと思う」と胸を張った。

魚住は「前半の25分、ブラジルを狙い通りにシャットアウトできた。世界選手権の予選になるアジア選手権、世界選手権、そしてリオまで見据えていいスタートが切れた」と確かな手ごたえを口にした。

世界との厚い壁

ブラジルを2失点に押さえた日本の連携プレーは、今後の可能性を感じさせた

とはいえ、内容では終始ボールを支配され、正直なところ世界の強豪から勝利を得るには、まだ相当に強化する必要があると感じた。それは戦った選手自身が一番感じていることだろう 。
「一つひとつのプレーにムダがない。ボールへの反応がよく、それぞれのプレーのイメージが出来上がっているんだろうなと感じた。とくに切り返しで大きな差を感じました」と川村は話す。

精度の高いパスを繰り出し、ボールの音が聞こえにくい浮いたボールも見失わずに反応する。華麗なドリブル、強烈なシュートのみならず、日本の陣内深いところでラインを割らずに切り返す空間認識力とテクニックは、観客の目を釘付けにした。

「見えなくなってからブラインドサッカーを始める日本選手と違って、もともとサッカーに親しみのあるブラジルの選手は、ボールを持っていないときの動き、それにボールを保持したときからシュートを打つまでをイメージしてプレーすることに長けているのかなと思う。技術を磨くことはもちろん、もっとサッカーを好きにならなくては、日本は世界に通用しないのでは」とキャプテンの落合は気を引き締める。

地元開催のリオパラリンピックで4連覇を狙うブラジルは、これからの3年間さらなる強化を図ることだろう。そのブラジルの背中を追う日本代表は、まず世界選手権への出場切符を得るために2013年に中国で開催予定のアジア選手権を戦う。収穫と課題を得た彼らのさらなる成長と変化に期待したい。

(取材・文/瀬長あすか、撮影/吉村もと)