ソチパラリンピック, バイアスロン, 冬季競技 — 2014/3/12 水曜日 at 17:40:06

“リラックス”が縮めた世界との距離 パラリンピック10位の佐藤圭一が見せた成長

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バイアスロン男子12.5キロで自己最高の10位に入った佐藤圭一の滑走(撮影/吉村もと)

「ケイイチ、リラックスだよ」

ソチパラリンピックのバイアスロンに出場した立位の佐藤圭一(エイベックス・グループ・ホールディングス)は、2010年のバンクーバー五輪・パラリンピックに同時エントリーし、今大会のクロスカントリー男子20キロ・クラシカル(視覚障害)で金メダルを獲得しているブライアン・マッキーバ(カナダ)にレース前、そう声をかけられた。

11日のバイアスロン男子12.5キロ(立位)で、佐藤は個人種目の自己最高となる10位の成績を残した。

「パラリンピックという舞台で、いつも通りの滑り、いつも通りの射撃ができた」 ゴール後の佐藤の表情は、実に晴れやかだった。

この日のソチの天気は雨。濃霧が覆い、視界は悪い。悪条件下の射撃ではミスをする選手が続出し、銃器トラブルに遭った者もいた。
そんな中、佐藤はリズムよく弾を放った。8日の7.5キロで満射だった好調さを維持しており、結果は1発ミス。「パーフェクトでいきたかった」と悔しさをのぞかせたものの、「命中率は出ている。僕の場合、海外勢に比べて走力が落ちる分、射撃でそこを補えるかがカギ。今日の結果はミスがすべてだけど、ハードコンディションの中で、どのポイントを抑えてレースをするか冷静に考えることができた」と、前を向いて話した。

それは、4年前とは対照的だった。パラリンピック初出場のバンクーバー大会時は結果を残せず、「実力不足」と力なくコメントするのみで、生気に乏しかった。「あの時は、緊張しすぎてガチガチだった。レースの後は、次につながる具体的な修正点を見つけるのではなく、ただ漠然と『あぁ、世界にかなわない』と落ち込んでしまって。自分で自分の気持ちを落としている感じでした」

そんな考え方は、バンクーバー大会の後も、たびたび佐藤自身を追い詰めた。「結果を残すしかない」「もっと練習しなければ」。真面目過ぎるとも言える競技への姿勢がオーバーワークを招き、膝や一本のストックを握る右手のケガを引き起こした。さらに、競技に専念できる環境を手に入れたいと、アスリートとして就職したが、それがまたオーバーワークを加速させることになってしまった。

ソチ本番を目前に控えた今年1月には、遠征中に右手親指を負傷した。ストックが握れないほどの重傷。4年に一度の舞台が近づく中、焦りはあったに違いない。

しかし、ケガについて尋ねると「ソチまでに完治します。治らなくても、ノーストックで滑りますから」と冗談めかして話した。これまでの「考えすぎてしまう」佐藤と少し様子が違っていた。

スキー強豪国の武者修行で学んだこと

実は、佐藤には転機があった。13年、伸び悩みから脱したいと、パラリンピックやワールドカップ(W杯)で活躍するスキーの強豪国に練習を申し込んだのだ。カナダやウクライナのナショナルチームが佐藤を受け入れ、マッキーバのような一流選手がいる練習に食らいついていった。
海外のトップチームからは、スキーテクニックを学ぶことが多かった。ヒルクライムをトレーニングに取り入れるなど、できることはなんでも真似をした。

レース後、清々しい表情でインタビューに応じる佐藤

最も大きな収穫のひとつは、「リラックスすること」を学んだことである。

一流選手と行動をともにし、自分に足りないのは、力みすぎないことだと気づいたのだ。
リラックスすることを覚えたことで、滑りの硬さもなくなった。W杯での成績も上向きになり、武者修行の成果も現れ始めている。

世界の競技力が軒並み上がっている中、ソチでは、バンクーバーとほぼ同じランクにつけている。それは、「世界についていけている証拠」と胸を張る。

14日に、バイアスロンの15キロに出場する。
「今大会掲げている『リラックス』をテーマに、いつも通り走ります」

世界に太刀打ちできないと、絶望した4年前の佐藤は、もういない。一流選手と同じ釜の飯を食うことによって縮まった世界との距離。これからも少しずつ縮めていくつもりだ。

(取材・文/瀬長あすか、撮影/吉村もと)