東京2020パラリンピックから正式競技に採用される「パラテコンドー」。その日本代表選手選考会に位置付けられた「サンマリエ カップ」が26日、日本財団パラアリーナで開催され、本大会で優勝した3人が代表推薦選手に決定した。
迫力満点の華麗な足技に注目
テコンドーは、蹴り技によって得点を競う格闘技。東京パラリンピックでは、上肢障害であるK43とK44の選手が対象とされ、K43/K44合同級として男女それぞれ体重別の3階級、合計6階級(男子は-61kg、-75kg、+75kg/女子は-49kg、-58kg、+58kg)で行われる。開催国の日本には、2019年12月31日時点の世界ランキング(2020年1月発表)を保有している3階級に出場資格が与えられ、そのうち1階級は女子でなければならないため、〈男子-61kg〉〈男子-75kg〉〈女子+58kg〉に1名ずつ、計3名が出場することになる。
本大会は〈男子-61kg〉〈男子-75kg〉の代表決定戦、そしてすでに代表推薦選手に内定している〈女子+58kg〉世界ランキング8位の太田渉子(K44/ソフトバンク)のエキシビジョンマッチが行われた。
階級を落としたことで、スピードが増した田中
3選手が競う〈男子-61kg〉の枠を勝ち取ったのは、階級を落として臨んだ田中光哉(K43/ブリストル・マイヤーズスクイブ/世界ランキング11位)。田中は長いリーチを生かした力強い足技で、伊藤力(K44/セールスフォース・ドットコム/同9位)を38対15、阿渡健太(K43/日揮ホールディングス/同5位)を48対24で下して優勝。日本におけるパラテコンドーの第一人者、伊藤は阿渡を28対26で抑え、2位となった。
〈-75kg〉級だった田中は、2019年3月のUSオープンで海外の選手とのパワーの差を痛感し、「国際大会で結果を出すには階級を落とすしかない」と思い至ったという。その後3カ月かけて徐々に体重を落とし、昨年6月以降からは〈-61kg〉級に変更した。格闘技において、階級を落とすことはパワーダウンに直結するが、対戦相手が小さくなったこと、そして身体が軽くなったことでスピードが増し、メリットを感じることのほうが多いようだ。
大声援を味方にした工藤は、星野に初勝利
〈男子-75kg〉は、工藤俊介(K44/ダイテックス/同8位)と星野佑介(K44/東京都市大学等々力高等学校)の一騎打ち。第1ラウンドは2対2の同点、第2ラウンドは5対4と星野がリードしたが、工藤はこのラウンドで流れをつかみ、第3ラウンドの開始早々、3連続得点で巻き返しに成功。終盤には180度の回し蹴り(3点)も決め、15対11と星野を引き離した。工藤にとって、星野は過去に2戦2敗という苦手な相手だったが、本大会はコーチと立てた対策と大声援に後押しされて、勝利を手にした。
〈女子+58kg〉エキシビジョンマッチでは、太田が健常者の南雲麻衣と対戦。試合終了間際に一撃を放って13対12とし、勝負強さを見せつけた。
田中、工藤、太田の3選手が笑顔の会見
この日、会場には揃いのハッピやTシャツを着込んだ応援団が大勢詰めかけた。太田は試合後に行われた記者会見で、たくさんの観客がいるなかで試合をできたことを振り返り、「東京パラリンピックに向けてのいいイメージづくりになったので、ますます練習に励んでいきたい」と気持ちを新たにした様子。
東京パラリンピックの目標を聞かれた田中は「新競技であるパラテコンドーの面白さを伝えるため」、工藤は「両親や会社、道場の仲間への感謝の気持ちを伝えるため」に金メダルを獲得すると明言。それぞれの思いを胸に、代表推薦3選手はパラテコンドーの初代メダリストを目指す。
(取材・文/山本千尋、撮影/佐山篤)