アンプティサッカー — 2019/11/4 月曜日 at 11:32:58

死力尽くした決戦、PK戦制したFC九州バイラオールが3年連続5度目V!

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相手の厳しいディフェンスをかわし、ボールを蹴るFC九州バイラオールの萱島比呂(左から2番目)=富士通スタジアム川崎(撮影:佐山篤)

上肢または下肢の切断障害がある人が行うアンプティサッカー。そのクラブチーム日本一を決める「第9回日本アンプティサッカー選手権大会2019」の最終日が3日、富士通スタジアム川崎で行われた。

日常で使用する義足や義手を外し、フィールドプレーヤーは「クラッチ」で身体を支えながらプレーする。ゴールキーパーは上肢障害の選手が担う。国内では約100名の選手が活動しており、今大会には合同チームを含め、7チームが参加した。

MVP萱島「みんなで勝ち取った勝利」

決勝戦に勝ち上がったのは、過去4度の優勝経験があるFC九州バイラオールと、リーグ戦で強豪のFCアウボラーダを下した昨年3位の関西Sete Estrelas。前半8分、関西Sete Estrelasの16歳・近藤碧がゴール前で相手ディフェンスを交わして角度あるシュートを決め、先制点を挙げた。すると、その直後、FC九州バイラオールはエース・萱島比呂が意地の同点弾を決める。そのあとは一進一退の攻防が続き、1-1のまま延長戦に突入するも、ともに決定打が出ず、勝敗はPK戦へと委ねられた。

そして、その運命のPK戦では、5人全員が成功したFC九州バイラオールに対し、関西Sete Estrelasは3番手のキッカー・近藤がグラウンダーシュートを放つが失敗。あと一歩のところで敗れ、初優勝はならなかった。だが、昨年まで6大会連続で3位だった彼らが初めて決勝に進出したことは、次につながる大きな成果だ。守備で貢献した川村大聖が「負けてただただ悔しいが、碧ら10代の選手が成長して団結力もアップした」と話すように、若手とベテラン選手の連携で幾度とチャンスを作り、王者相手に互角に渡り合った。だからこそ、悔しさも大きくなるが、この敗戦を足掛かりに、さらなるスケールアップを図っていくことだろう。

PK戦の末に勝利し、喜びを爆発させるFC九州バイラオールの選手たち

そして彼らの挑戦を正面から受け止めたFC九州バイラオールは、試合を通してさすがの安定感が光った。攻守で活躍し、大会の最優秀選手に選ばれた萱島は、「チームのみんなで勝ち取った賞。分かち合いたい」と言い切る。その言葉のとおり、ピッチ上の選手と、ベンチメンバー、スタッフ全員が一丸となって掴んだ勝利だった。

3年連続5度目の優勝。チームを代表して記者会見に臨んだ野間口圭介も、「全員がうまくかみ合った」と手ごたえを口にする。また、今大会は地域の行事と同時開催だったこともあり、家族連れらが観戦に訪れ、初めて見るアンプティサッカーの迫力に歓声を挙げていた。報道陣からアンプティサッカー界の今後について聞かれた野間口は、「ラグビーワールドカップのように、ニワカからでいいのでアンプティサッカーを知ってもらいたい。いずれはパラリンピック競技になってほしい。そして、アンプティサッカーもワールドカップを日本で開催できれば」と話し、パラスポーツとしての認知度の向上を願っていた。

3位決定戦はアウボラーダが制す

3位決定戦は、FCアウボラーダが序盤から速攻やセットプレーで攻撃をしかけ、合同チーム②(ガネーシャ静岡AFC+FC-ONETOP)を3-0で下した。アンプティサッカーの第一人者、エンヒッキ・松茂良・ジアスは前線で相手を引きつけ、味方にスルーパスを送るなど巧みなテクニックを見せ、勝利に貢献した。そのエンヒッキと息の合ったプレーで2得点をマークしたのは、高校2年の秋葉海人。「相手の圧力がすごくて、自分のプレーが発揮できなかった」と反省を口にするが、片脚にボールが吸い付くような軽やかなステップで会場を大いにわかせた。

スピードと巧みなボールコントロールで存在感を示したFCアウボラーダの秋葉(左)

4歳で事故に遭い、小学4年から6年まで義足を装着してサッカーに親しんだという秋葉。中学に入り、手術をしたことでサッカーができなくなったため卓球を始めたあと、アンプティサッカーに出会った。

憧れの選手に、巧みなテクニックを持つエンヒッキ、スピードとドリブル力に長ける細谷通と同チームの先輩の名を挙げる。さらにはライバルながらMVPの萱島のプレーにも影響を受ける。「3人ともプレースタイルは違うけれど、すごい先輩たち。それぞれの良いところを吸収して、活躍できる選手になりたい」と話す秋葉。これからのより一層の成長に期待したい。

5位には、AFC BumbleBee千葉が入った。数名の選手が先月の台風19号で被災し、出場を見送った。苦しいチーム事情となったが、FCアウボラーダの協力を得て3名をレンタルすることで乗り切った。感謝の気持ちと仲間の想いとともに最後まで戦い抜いた選手たち。代表の根本大悟は、「“アンプティファミリー”の支えのおかげで大会に参加でき、この成績をおさめることができた。本当にありがとうと言いたい。うちのチームはサッカー経験者が少ないけれど、地道に練習を積んできた。来年はひとつでも上を狙い、いずれは優勝できるチームにしていきたい」と話し、前を向いた。

<最終結果>
優勝 FC九州バイラオール
2位 関西Sete Estrelas
3位 FCアウボラーダ
4位 合同チーム②(ガネーシャ静岡AFC+FC-ONETOP)
5位 AFC BumbleBee千葉
6位 合同チーム①(A-pfeile広島AFC+Asilsfida北海道AFC)
7位 TSA FC

記者会見後、写真におさまる選手たち。左からMVPの萱島比呂(FC九州バイラオール)、野間口圭介(同)、得点王の後藤大輝(7得点 / ガネーシャ静岡AFC)、石渡俊行賞のエンヒッキ・松茂良・ジアス(FCアウボラーダ)

<個人賞>
MVP:萱島比呂(FC九州バイラオール)
得点王:後藤大輝(7得点 / ガネーシャ静岡AFC)
ベストGK賞:上野浩太朗(関西Sete Estrelas)
ベストDF賞:川村大聖(関西Sete Estrelas)
石渡俊行賞:エンヒッキ・松茂良・ジアス(FCアウボラーダ)

(取材・文/荒木美晴、撮影/佐山篤)