【Writer’s eye】車いすテニスの国枝、リオ内定第1号に アジアパラ優勝で“最高峰”へスタート

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世界一のスピードとチェアワーク

試合後に健闘をたたえ合う両選手

今、世界のテニスは、車いすの高さを上げて高い打点から打つパワーテニス時代にある。そのなかで、国枝は “スピード勝負”を貫いている。“世界一”と言われるチェアワークで、コートを縦横無尽に駆け巡るのが国枝流だ。

「国枝はフォアが良いと評価してもらうことがありますが、彼の一番のベースは“いかに速く走れるか”。実は誰よりも走り、誰よりも多く相手のボールを返している選手なんです」とは、17歳のころから国枝を指導する丸山弘道コーチ。国枝も、「自分はやっぱり走るのが好き。『あ、このボールを取るのか!』というのが自分のテニス」と言い切る。

そのプレースタイルで、世界の頂点に君臨してきた。加えて昨年末からは、両足を車いすに固定するベルトを取り払い、体幹を使ってより力強いショットを打つ新しい取り組みにも挑戦している。当初は重心の取り方が難しかったが、それをコントロールする筋力をつけた今は、完全に自分のものにしている。持ち味のスピードにパワーが加わり、国枝はさらなる高みに向かっている。

ただ、先に触れたように、ここ2カ月間は自分のプレー内容に満足していない。「テニスがかたいという感じかな」と首をかしげる。4年前、107連勝という大きな金字塔を打ち立てた。そんななか、連勝記録にはこだわっているつもりはなかったものの、無意識に自分のやりたいプレーや納得いくプレーより、安全パイの配球をして「負けないプレー」を選択していた、ということがあった。その時の「良くないスパイラル」と似た感覚だという。

自分のテニスを改善することに挑戦していても、試合のなかでは挑戦者ではない。108戦目で敗れ、「守りに入っていては成長できない」ということに気が付いてからは、翌日から背負っていた何かがすとんと落ちたように、会心のプレーができるようになったそうだ。来月、世界トップクラスの選手のみが参加する世界マスターズの出場を控えている。そこで、今一度自分のテニスと正面から向き合うつもりだ。

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