パラバドミントンでは、下肢障がい男子SL3の日本のエース、藤原大輔(LINE)がインドネシアの選手に23-21、21-16で勝利した。
「世界ランク2位の藤原が、1次リーグの初戦をストレート勝ちした」。こうして文字にすると、シードの格上の選手が順当に勝ち上がった、といういつものニュースだ。だが、今日の試合は、藤原にとってスコアの数字以上に過酷なものであり、かつ“特別な勝利”になった。
「自分に打ち勝って、壁を乗り越えられた」
試合後、涙ながらに藤原がそう語るのには、わけがあった。4年前、20歳で臨んだ仁川アジアパラ大会では、1勝もできなかった。「自分が予選で負けたのは、この時だけ」。苦い記憶を植え付けられたとともに、世界を席巻する“アジアの強さ”を痛感させられた大会だった。
その悔しさを原動力に、藤原は日本代表として数々の大会に出場してきた。義足のパラアスリートとして次第に注目が集まり、さらに4年をかけて世界ランキング上位を維持するようになると、メディアの露出が増え、日本パラバドミントン界の顔になった。だがその一方で、藤原はある思いに押しつぶされそうになっていた。
本当に自分は、成長できているのだろうか――。
「大事な試合や大舞台では、いつも負けてきたのが自分だった」と話す藤原。リードしていても、相手に追いつかれると、そのままリズムを崩して敗れることも少なくなかった。だからこそ、今回のアジアパラ大会ではその不安を払しょくし、真の実力を示したい。そうした強い思いを持って、藤原はコートにおりた。
ところが、藤原はアウェイの洗礼を受ける。観客席からは、シャトルの音が聞こえないほどの大声援が地元の対戦相手に送られる。コート上を横に流れる「経験したことのない」風の影響もあり、いつ緊張の糸が切れてもおかしくないような状況だった。そんななか藤原は、冷静さを保ち、「自分との闘い」に切り替えた。そして、粘る相手を振り切り、手に汗握る接戦をものにした。「試合の途中で、一度緩みかけたネジを締めなおしできた。その成長が一番大きかった」と振り返る。
リベンジを果たすべき舞台で結果を出し、自らを開放することができた。勝利の瞬間、思わずコートに倒れ込み、喜びを表現した藤原は、「大きくみれば、この勝利はただの予選の一勝かもしれない。でも、自分にとっては本当に大きい勝利です。本当に嬉しいです」と話すと涙をぬぐい、前を見つめた。
(取材・文/荒木美晴、写真/植原義晴)