「ワールドクライミンググランドフィナーレ福岡2026」が福岡県のいいづかスポーツ・リゾート ザ・リトリートで開催された。11月5日、6日にはパラクライミングの国際大会「World Climbing Para Series FUKUOKA 2026(以下、ワールドクライミングパラシリーズ)」が行われ、23の国・地域から約170人が参加した。
今年、全5戦が行われたワールドクライミングパラシリーズ。福岡大会はその最終戦で、障害の種類や程度に分けられた全19カテゴリーに世界トップレベルのパラクライマーが出場。日本勢は金4、銀3、銅4の計11個のメダルを獲得した。
パラクライマーは小学校の先生
男子RP3は、第1戦と第4戦を制した高野正(朝霞市立朝霞第九小教員)と、昨年の世界選手権覇者の山下和彦(平田機工)が予選1本目をともに完登し、決勝に進出。決勝では、ベルギーの選手に続いて山下が力強い登りで完登を果たした。最後に登場した高野もトップのホールドに手を伸ばしたが、つかみ切れず3位。それでも、観客席からの声援に手を挙げて応え、会場を沸かせた。
高野は13歳の時にユーイング肉腫の摘出手術の影響で左下肢の機能障害が残った。大学卒業後は民間企業で働きながら通信教育で学び、教員免許を取得。「多くの人に夢や希望を」という想いからクライミングを始め、現在は朝霞市の小学校で教壇に立つ傍ら、競技にも取り組んでいる。競技活動にかかる費用に限って企業からスポンサード支援を受けるというスタイルも特徴的だ。「そのおかげで、全5戦に出させてもらえた。感謝して登りたい」という言葉に力がこもる。
女子RP2で銀メダルを獲得した二橋真音衣(久留米大)も、高野の姿に刺激を受けた一人だ。公務員として働きながら競技を続ける高野に憧れ、パラクライミングに挑戦するとともに、保健体育の教員免許取得を目指しているという。
「僕の最終的な目標は、教育の世界にアスリートや何かに長けている人が入ってきて、子供たちに良い影響を与えられるような環境を作ること」と高野。競技者として、教育者として、新たな可能性を切り開こうと、挑戦を続けていく。
パワーリフティングと“二刀流”の西崎は初の決勝進出
男女混合で行われたAL1には14人がエントリー。西崎哲男(乃村工藝社)は予選1本目で3位、2本目で5位につけ、総合4位で自身初の決勝進出を決めた。23歳の時の交通事故で脊髄を損傷し、車いす生活となった。競技では車いすを降り、両腕の力だけで壁を登る。会場からの声援を受けながら、迷いのない動きで次々と課題を攻略していった西崎。決勝も4位で表彰台には届かなかったが、世界のトップクライマーと競り合い、確かな手ごたえをつかんだ。
西崎は元パラ陸上選手で、現役のパラパワーリフターでもある。東京オリンピックのスポーツクライミングをテレビで観て関心を持ち、体験に挑戦。パワーリフティングとは異なる持久力や指先の力、バランス感覚などが求められることに刺激を受け、2024年にパラクライミングを始めた。今大会は国際大会で4度目の出場となる。10月の愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会にはパラパワーリフティング日本代表として男子49㎏級に出場。強化や大会日程などの関係から、今年のワールドクライミングパラシリーズは第2戦と福岡大会のみの出場となったが、限られた機会のなかでも着実な成長を示した。次戦は11月末の日本選手権。再び自らのパフォーマンスを追求していく。
男子B2は日本勢が表彰台独占
視覚障害の男子B2は6人がエントリー。予選をトップで通過した57歳の簑和田一洋(サイオネス・ヘルス・ジャパン)が優勝を飾った。今季3勝を挙げている濱ノ上文哉(エイト日本技術開発)が準優勝、江尻元洋(野村不動産ライフ&スポーツ)が3位に入り、日本勢が表彰台を独占した。
20歳でクライミングを始め、健常者カテゴリーのトップクライマーとして活躍した簑和田。引退後の43歳で緑内障を発症し、パラクライミングに取り組み始めた。これまでB3クラスの第一線で競技を続けてきたが、初戦のソルトレークシティ大会のクラス分けでB2クラスへと変更。「B3クラスの海外のライバルに勝つつもりでやってきたので、複雑な気持ちもあった」と振り返るが、新たなクラスを受け入れて挑戦を続け、今季はフランス大会での優勝を含め、出場した4戦すべてで表彰台に立っていた。この福岡大会にはヨーロッパ勢の強豪が出場していなかったものの、見事頂点に立ち、日本勢の実力を示す結果となった。
「自国開催で日本人がワン・ツー・スリーを獲れたのはすごくうれしい」と喜びを語った簑和田。「筋力は60代、70代、80代になってもつけることができる。技術とパワーで、これからも上を目指して成長できれば」と、さらなる高みを見据えた。
LA2028大会を目指す會田が金メダル
パラクライミングはロサンゼルス2028パラリンピックで初めて実施される。男女各4クラスが実施される予定で、今大会にもLA2028大会を目指す選手が集結。ハイレベルな戦いを繰り広げた。
男子B1では、世界選手権6度の優勝を誇る會田祥(三井住友海上あいおい生命保険)は、予選を1位タイで通過。決勝では最高高度を獲得して優勝を飾った。世界王者の実力を示す登りで、貫禄を見せた。そのほか、日本勢では男子AL2の結城周平(三井住友海上あいおい生命保険)が5位、男子RP1の岡田卓也(Labcorp Laboratories Japan G.K)が6位、女子AL2の渡邉雅子(EY新日本有限責任監査法人)が4位だった。
(取材・文/荒木美晴、写真/植原義晴)
MA SPORTS 代表者、ライター