コラム, 車いすバスケットボール — 2024/1/24 水曜日 at 18:02:22

【特別寄稿】パリ最終予選に向け確かな手応えをつかんだ車いすバスケ女子日本代表 ~2024アジア・オセアニア・チャンピオンシップス~

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「Fearless」のスローガンを掲げ戦った女子日本代表=タイ・バンコク(撮影/張理恵)

1月12~20日、車いすバスケットボールの国際大会「2024アジア・オセアニア・チャンピオンシップス」(以下、AOC)がタイ・バンコクで開催された。パリ・パラリンピック予選を兼ねる今大会に、女子は日本を含む8カ国と、アジア・オセアニア選抜(ネパール、インドネシア、バーレーン、アフガニスタンの混合)の計9チームが出場し、男子同様、アジア・オセアニア地域に与えられた、わずか1枠のパラリンピック出場権を巡り熱戦を繰り広げた。

準決勝でオーストラリアを破った日本は中国との決勝戦に臨み、東京パラリンピックと昨年の世界選手権で銀メダルを獲得した中国を相手に、前半をリードで折り返した。しかし後半で引き離され、勝利することはできなかったが、準優勝で大会を終え、4月に大阪で行われるパラリンピック女子最終予選に向け弾みをつけた。

女子日本代表が掲げるチームスローガンは「Fearless ~地獄の40分間のその先に~」。

準決勝でオーストラリアを下した日本代表

「怖れない」や「勇敢な」を意味するFearlessに、どんな相手にも怖れることなく自分たちのバスケットをやろう、という思いを込めた。相手に“地獄”のような40分間を経験させるくらい全員で走り続け、その先にある勝利やパリへの出場権をつかみとる。闘志あふれるスローガンを胸に、強い気持ちで、一致団結して戦いに挑んだ。

予選リーグを2勝2敗の2位で終えた日本は、3位(0勝4敗)オーストラリアとの準決勝に臨んだ。高さと体格で日本を上回るオーストラリアは、ここ数年で選手が入れ替わり、長年にわたって代表チームを牽引してきたエースのアンバー・メリットが引退し、新チームで今大会を迎えた。今後、自国開催となる2032年のブリスベン・パラリンピックに向けて、強化が加速することが予想される。

試合は序盤から日本のディフェンスが機能し、立て続けに8秒バイオレーションを奪う。オフェンスでも主導権を握り日本のリードで試合が進む。2Qでは、車いすバスケの皇后杯で8連覇中の女子強豪クラブチーム「カクテル」のメンバー5人による“カクテルライン”が登場し、今大会でフル代表に初選出された西村葵(高校2年)と小島瑠莉(中学3年)も躍動した。

29-18で前半を終えた日本は、3Q中盤からフィニッシュが決まらない、耐える時間帯が続く。それでも、集中力を切らすことなく40分間走り切り、46-33で勝利を収めた。

そうして迎えた、中国との決勝戦。日本は4月に控えるパラリンピック女子最終予選に開催国枠として出場できる権利があるが、誰ひとりとして最終予選にまわることなど考えてはいなかった。中国に勝って、ここでパラリンピックへの切符をつかみ取る。強い意志を持って、コートに立った。

現地、さらには日本からも応援団が駆けつけ、太鼓を鳴らし「日本コール」が響き渡った。会場はまるで“ホーム”のような雰囲気だ。大声援が選手の背中を押すなか、日本は最初の得点こそ許したものの、5人が連係して中国にプレッシャーをかけ続ける。パスコースを徹底的につぶし、24秒バイオレーションを奪った。オフェンスでも、3ポイントライン内側に入れず思うようにシュートを打てなかった予選リーグでの対戦とは違い、自分たちの形を整えゴールを狙った。攻守にわたり流れを引き寄せた日本は1Q を終え12-8と、今大会一番の立ち上がりを見せた。

中国との決勝戦にフル出場した柳本あまねの奮闘が光った。柳本はオールスター・ファイブも受賞した

続く2Q、序盤で同点にされるも、柳本あまねの3ポイントシュートで再び中国を跳ね返す。「迷いなく、みんなで同じプレーを意識できていたからこそ切り替えも早くて、それに中国が追いつけなかった」と網本麻里。前日の夜、昨年の世界選手権の中国戦で8秒バイオレーションをとったディフェンスシーンをみんなで何度も見返し、いいイメージを共有した。再現性を高め、そのイメージ通りに5人がそれぞれの仕事を遂行したことが、相手の0.1秒先を行くプレーを可能にした。

それまでの2試合とはまるで違う日本に焦りを見せる中国。それは、機械のような正確性を誇る中国のシューターが、ノーマークのシュートを何本も外したことからもうかがえる。日本は、世界2位の中国にリードを許すことなく22-21で前半を終えた。

後半、中国の猛反撃が始まる。日本は前半20分のようなプレーをしようと懸命に努めるが、加速していく中国の勢いを止めることができず、3Qで28-45と引き離された。それでもギアを入れ直し、疲れを見せる中国と最後まで渡り合い、35-54で試合終了。スコアこそ予選での対戦とさほど変わらないが、試合を終えた選手たちの表情はそれまでとは明らかに違った。

キャプテンの北田千尋は手応えとともに、来たる最終予選に向け強い覚悟を語った。

網本麻里は「自分たちの力をチーム全員が信じて出せたことが強いディフェンスにつながった」と語った

「自分たちがやろうとしているバスケは間違っていない。前半の20分は戦えた。じゃあ、あと20分、何が足りなかったのか。個々のスキルなのかチームとしての戦い方なのか。あと20分できれば、私たちは世界2位に勝てる、世界2位になれるところまできている。『たった20分』かもしれないが、これを突き詰めて勝ち切るところまで行くには、すごい道のりだと思う。気が遠くなるかもしれないけど、それを突き詰めていくことでしかパリには行けないし、パリのその先もない。私は下を向くことなく、あと4カ月、それを突き詰めていきたい」

そして副キャプテンの萩野真世は、パリ・パラリンピック出場権を逃した男子日本代表の分まで戦うと決意を口にした。

「東京パラリンピックで男子が銀メダルを獲って、日本で車いすバスケットボールという競技をメジャーにしてくれた。その男子がパリに行けないというのは大きな衝撃だった。女子がパラリンピックに出られなかったロンドンとリオでは男子がつないでくれた。その分、今度は女子がこの車いすバスケットボールの歴史を途絶えさせないようにしなければいけない。パリに行くことが、日本の車いすバスケットボール、日本のパラスポーツが世界に通用するということを証明することになる。しっかり最終予選で勝ち切って、パリに絶対に行きたいと思う」

女子日本代表は、4月に大阪で行われるパラリンピック女子最終予選を前に、来月2月16~18日には「国際親善車いすバスケットボール大阪大会(通称:大阪カップ)」(Asueアリーナ大阪、大阪市)に出場する。すでにパリ大会の出場権を獲得しているイギリス、そして日本と同じく最終予選に出場するカナダ、オーストラリアを迎え、最終予選前最後の実戦に臨む。

積み上げてきた自分たちのバスケに大きな手応えをつかんだ、車いすバスケットボール女子日本代表。“20分”のその先へ。パリへの挑戦は続く。

(取材・文・撮影/張 理恵)