Writer's eye, デフバスケットボール — 2017/6/2 金曜日 at 19:39:23

【Writer’s eye】デフバスケットボール男子日本代表・上田頼飛監督の飽くなき探究心

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2014年の就任以降、さまざまな改革を実行しチームを牽引する上田頼飛監督。練習でも自らボールを持ち、指示を出す

2014年の就任以降、さまざまな改革を実行しチームを牽引する上田頼飛監督。練習でも自らボールを持ち、指示を出す

聴覚に障がいを持つ人が行う「デフバスケットボール」。試合中は聴力による不平等をなくすため、選手の補聴器の装用が禁止されている。ベンチや仲間の声、審判の笛などが聴こえない彼らは、口の動きを読み取り、ジェスチャー、アイコンタクト、振動を敏感に感じ取りながら、視覚情報のみでプレーする。

チームスポーツにおいて状況把握力は欠かせないものだが、彼らはそうした優れた観察力をフルに活用し、コミュニケーションを図っている。

「それこそが、デフスポーツならではの魅力だと思います」

そう話すのは、デフバスケットボール男子日本代表の監督を務める上田頼飛さん。上田さんによると、「実は手話を使えない選手がいる」ため、ベンチでのコミュニケーションも工夫が必要だそうだ。

選手は練習では補聴器を装着。上田監督の口の動きにも注意を払い、指示を確認していく

選手は練習では補聴器を装着。上田監督の口の動きにも注意を払い、指示を確認していく

たとえば、50秒間のタイムアウトでは、ホワイトボードを使って指示を出す。といっても、選手がベンチに戻ってきてから文字にして伝えていては時間が足りない。そこで、上田さんがとった方法は、試合を見ながら伝えたい内容をどんどん発言していき、それをアシスタントコーチがホワイトボードに書き取り、タイムアウトで選手に見せるというものだ。

「スタッフ間でスムーズな連携がとれてはじめて、選手の個性が活かせる。そのためには、普段からチーム内で信頼関係を築くことが大事です」と、上田さんは語る。

選手から指導者へ、影響を与えたふたりの恩師

野球やソフトボールに励んでいた小学5年の時、放課後の体育館を開放して行っていたミニバスケットボールに参加したことが、上田さんとバスケットボールの出会いだった。そして、中学と高校の恩師の存在が、今の指導者としての上田さんに大きな影響を与えているという。

「中学の時、私はコミュニケーションが苦手でトラブルメーカーだったんです。それでバスケ部の顧問だった先生が担任になってくれて、支えてくれた。高校でもバイトをしながらバスケをしていて、学校も休みがちで、真面目な生徒じゃなかったんですが、先生は『もう来るな』とは言わず、ずっと見守ってくれました。この先生方に共通していることは、全員を巻きこんでチームを作っていく、ということ。選手に考えさせ、コートの上で人間関係を作らせていくんです。その経験から、今私も選手に常日頃から声をかけるようにして、自分で考えるきっかけを与えるようにしています」

ひとりのアスリート、人間としての成長に期待

広い人脈を持つ上田監督。取材の日は、監督の同級生でBリーグ「茨城ロボッツ」(B2)の佐藤浩貴選手が練習に参加してくれた

広い人脈を持つ上田監督。取材の日は、監督の同級生でBリーグ「茨城ロボッツ」(B2)の佐藤浩貴選手が練習に参加してくれた

大学でバスケットボールを続けながら、高校でコーチをしていた上田さん。卒業後は支援学校や私立高校に務め、2014年に知り合いからデフバスケットボールの代表監督を打診された。

「もともとストリートバスケをやっていて、海外の人とプレーする時に言葉は通じないけれど、やっていくうち連携がとれるようになっていったという経験があった。だから、言葉の壁も、聴覚の壁も同じだな、って思ったので、そこの戸惑いはありませんでした。それよりも、“日本代表”を私に背負えるか? と正直、思いましたね」

だが、ある出来事が上田さんの心に火をつけた。「ある時、周囲の人に『障がいがあるから日本代表になれるんでしょう?』と言われたんです。それが本当に悔しくて。それなら真のアスリートを育てよう、と決意しました」

それからは普段の生活態度や身なり、SNSの使い方まで、徹底して指導してきた。「勤務先でも認められて、練習や遠征にも“ぜひ行ってこい”と言ってもらえる選手になってもらいたい」と、上田さん。

就任して3年。プレー面では世界と渡り合うためにフィジカルや戦略を改革中だ。「身長で10センチ以上も負けているなら、心で補うしかありませんからね。うちの選手はガッツがありますよ」。また、上田さんはNPO法人を立ち上げ、デフバスケットボールの普及・育成活動にも尽力しており、「ようやく戦うベースができてきた」と力をこめる。

日本代表は「第1回ユーラシア大陸デフスポーツ文化フェスティバル2017」(モンゴル/6月7日開幕予定)にエントリー。日本のほかに、北アジア諸国が参加予定の国際大会だ。現在のチームの実力をはかる絶好の機会。上田さんのさらなる改革、そしてチームの飛躍に期待したい。

上田頼飛監督

上田頼飛監督

<プロフィール>
上田頼飛(うえだ よりたか)
1981年、大阪生まれ。大阪体育大学卒業。バスケットボール選手から指導者に転向し、2014年にデフバスケットボール男子日本代表監督に就任。15年世界選手権(台湾)で特別コーチ賞を、また大阪バスケットボール協会から優秀コーチ賞を受賞。16年11月にデフバスケットボールの支援活動などを行うNPO「one-s future」を設立。真言宗山階派の僧侶でもある。

※取材協力:株式会社ゼネラルパートナーズ

(取材・文・撮影/荒木美晴)