CPサッカー, Writer's eye — 2018/7/20 金曜日 at 9:47:29

【Writer’s eye】「泥臭く、人を楽しませるプレーを」 CPサッカー日本代表・大野僚久が歩む、サッカー人生

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CPサッカー日本代表として活躍が期待される大野=カナフィールド(撮影/荒木美晴)

CPサッカー(脳性まひ者7人制サッカー)日本代表、大野僚久(ともひさ)。幼いころから、彼のそばにはいつもサッカーボールがあった。

小学2年でサッカーを始め、平日・休日問わずに練習に明け暮れる毎日。「ボールを長く持ちたい」と、高校でフットサルに転向し、湘南ベルマーレフットサルクラブの下部組織であるロンドリーナに入団した。

ボールを蹴るのが楽しい――。
大野の競技人生は、まさにこれから花開こうとしていた。

だが、悲劇が突然、彼を襲った。ロンドリーナで練習中に頭痛に見舞われ、急に呂律が回らなくなった。そのままピッチに倒れ込んだ大野は意識を失い、病院に救急搬送された。原因は先天的な脳動静脈奇形だった。幸いにも1週間後に意識を取り戻したが、言語障がいが残り、右半身はまひして動かなかった。

「病室では『なんで俺が?』とずっと言っていたらしいです」と大野。主治医の見立ては、障がいが残り、今後の生活も困難とのことだった。回復後は養護学校への転校も勧められていたという。

だが、大野はあきらめなかった。

「もう一度、サッカーボールを蹴りたいとずっと思っていました。サッカーをするにはどうしたらいいか、それが生きるモチベーションになっていました」

入院期間は8カ月に及んだが、厳しいリハビリに取り組んだ結果、入院中に走れるまでに回復。利き手を右手から左手に変え、退院後はもとの高校に復学することもできた。

再び競技人生の扉を開いたCPサッカーとの出会い

日本代表合宿で荒田監督(左)の話に耳を傾ける=カナフィールド

ロンドリーナは退団したが、高校3年の1年間は小田原のフットサルチームでプレー。卒業後は福祉を学ぶ専門学校に進学し、県リーグで1年間活動した。主治医も驚くほど日に日に走るスピードが上がり、身体の状態は良くなっていった。

そんな時、偶然インターネットで身体にまひがある人のサッカーがあることを知った。調べを進めると、日本にもクラブチームがあり、パラリンピック種目でもあることがわかった。「えっ、日本代表もあるの!? うらやましい! という気持ちが先にきました」と大野は笑って振り返る。

さっそく、CPサッカークラブチームの横浜BAY FCにコンタクトを取り、早速見学と体験に出かけた大野。そこで目の前で繰り広げられるプレーに、大きな衝撃を受けたという。「自分と同じ片まひでプレーしている選手を見て、俺より動けるんだ! 負けたくない! って、わくわくしましたね」

それからすぐに入団し、そのわずか1か月、20歳のときに日本代表に選出された。CPサッカー日本代表の荒田雅人監督は、大野について「フットサルをやっていたこともあり、テクニックがある」と評価。「ボールを保持して、攻撃の起点になるプレーヤーになってほしい」と期待を寄せる。

世界の壁は厚く、またCPサッカーは2020年東京パラリンピックから実施競技から外れてしまったが、大野は「日の丸をつける感謝の気持ちと責任」を感じながら、日々ボールと向き合う。

仕事を通してCPサッカーを知ってもらいたい

今年4月、フィットネスクラブの企画開発と運営を手掛ける会社に、アスリート雇用で就職した。人と携わる仕事を希望していた大野は、スポーツクラブのフロントに配属され、合宿や遠征時以外はフルタイムで働く。CPサッカーを多くの方に知ってもらうため、店舗の自己紹介のPOPにも“日本代表”と書いた。少しずつゲストにも浸透しはじめて、「“応援に行くからね”と言ってくれる人も増えてきたんです」と笑顔で語る。

「会社や周りの人たちのサポートに感謝しています。身体にまひがあっても、大好きなサッカーができる。人を楽しませるプレー、泥臭いプレー、勝負にこだわるプレーをこれからも目指したいと思います」

【採用担当者の声】

野村不動産ライフ&スポーツ株式会社 福島寿典人事部副部長

採用担当の福島さん(左)と大野選手。

当社としては、アスリートの採用は大野選手が初めてです。パラアスリートとしての向上心だけでなく、彼の笑顔や人柄に魅せられて採用を決めました。「美しく、強く。」が当社のコーポレート・メッセージです。障がいという個性を持ち、CPサッカーという他の人にはできないことを経験してきている大野選手は、まさに会社のイメージにぴったりです。

障がいを持つ社員の新卒採用は前例がありません。大野選手には、持ち前の明るさと実直さを発揮して、社員とゲストの方をつなぐ橋渡しの役割を期待しています。

また、彼の同期はトレーナーになっていくわけですが、成長したのちには大野選手のサポートをしてくれたらという期待もありますし、多様性を認める人材になってほしいと願っています。

※取材協力:株式会社ゼネラルパートナーズ

(取材・文・撮影/荒木美晴)