パラアイスホッケー日本代表の強化合宿が9月19日から22日まで、NTC競技別強化拠点施設のやまびこスケートの森アイスアリーナで行われた。日本パラアイスホッケー協会の強化指定選手20人に、次世代育成選手と日本スポーツ協会によるアスリート発掘事業「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」(J-STARプロジェクト)の3期生らが加わり、約30人が汗を流した。
パラアイスホッケー界も新型コロナウイルスの影響を大きく受けた。2月下旬の強化合宿以降、活動停止を余儀なくされ、3月と5月の海外遠征は中止に。活動自粛中はオンラインミーティングを活用し、モチベーション維持に注力した。7月に入り、4カ月半ぶりに活動を再開。スポーツ活動再開ガイドラインに準じてトライアウトを実施したのを皮切りに、ここまで月に2回のペースで強化合宿を組んでいる。今回も関係者の日々の健康管理の徹底はもちろんのこと、密集空間を避けるためのロッカールームの増設やプレー中の飛沫感染を防ぐためのマウスシールドの着用、コーチ陣が指導する際はマイクを使用するなど、さまざな対策を講じて臨んでいた。
競技を始めて2年で急成長を遂げている新津知良(長野サンダーバーズ)は、「自粛期間中をどう過ごすかが、のちの結果に出ると考えていた。ここで差をつけようと思った」と話し、自宅でのシュート練習や、車いすノルディックで走り込むなど追い込んできたという。キャプテンの児玉直(東京アイスバーンズ)は、「活動再開後、明らかにレベルアップしていると感じる選手たちがいる。他のプレーヤーにいい影響を与えるし、私自身も刺激を受けている」と語り、そうした選手の存在がチーム前進の足がかりのひとつになっていると明かす。
テーマはディフェンス力向上
最下位に沈んだ昨年の世界選手権では、得点力不足だけではなく守備力の課題も浮き彫りになった日本代表。大会後に就任した信田憲司監督の新体制のもと、今季はとくにディフェンス力の鍛錬に時間をかけているといい、今回の合宿でも集中的にドリルに取り組んでいた。
強化合宿の取材は1年3カ月ぶりだったのだが、以前より練習の合間あるいは休憩時などにリンク上で話し合いをする場面が増えたように映った。とくに、若手選手がアドバイスを求めて先輩やコーチ陣に声をかけ、またベテラン勢も一人ひとりに向き合い、応えていたのが印象的だ。
J-STARプロジェクト生の金子幹央は、「最初は手探り状態だったけれど、ここ1カ月ほどで楽しいと思えるようになった。学んだことを同期の仲間に共有していきたい」と、競技の魅力を感じているようす。金子はパラアイスホッケーでは有利とされる両足切断。「そこは少しプレッシャーに感じる」としながらもスピードは右肩上がりで、才能の開花に期待がかかる。
1年半後の北京パラリンピックの出場を目指すうえでは、とくに競技歴の浅い選手の加速度的成長が必須だ。これまでは競技人口の少なさから生まれにくかったチーム内の競争原理が、今後どう作用するか楽しみだ。
5年ぶりに戻ってきた守護神「北京パラを目指す」
また、元日本代表ゴールキーパーの永瀬充(北海道ベアーズ)が今合宿で現役に復帰した。永瀬は2015年の世界選手権を最後に代表を引退。その後は、地元・北海道を中心にパラスポーツの普及活動などに積極的に関わりながら、昨シーズンから日本代表の臨時GKコーチも務めていた。
現在のところ、北京パラリンピックに向けたGK候補は数名いるが、仕事との調整や体調の問題を抱えていたり、年齢制限で出場できないといった状況。今年1月のイタリア遠征の試合の映像分析も踏まえ、GKの強化が急務と捉えて、5年ぶりの現役復帰を決意した。
今回の合宿では、永瀬が中学生の関谷譲(東京アイスバーンズ)に指導したり、プレーヤーに声をかけるなど、さっそく存在感を示しており、新津は「ミツさんの指示が具体的で的確。ゴールに背を向けている状態でも、自分の後ろから聞こえる声で目の前にビジョンが広がる」と、感心したようすだった。
なお、22年北京パラリンピックに向けては、日本代表が出場するための第一歩となる世界選手権Bプールが来春開催の見込みとなっている。
(取材・文・撮影/荒木美晴)