現地時間18日、アイススレッジホッケーは準決勝の2試合を実施。正午から行われた第一試合は、予選グループA2位の日本と、グループB1位のカナダが対戦した。試合は、日本が3-1でカナダを破り、史上初の決勝進出を決めた。日本は先制点を挙げられたあと、第2ピリオドに遠藤のシュートで同点に追いつき、最終ピリオドに上原が追加点を挙げて優勢に。試合終了16秒前には、さらに1点を追加し、最強・カナダを破った。
日本が、ついにやってくれた。“王者”カナダに勝利。しかも、準決勝という大舞台で、自分たちのプレースタイルを守って勝った。対カナダ戦としては、練習試合、公式戦を通して、実に2002年ソルトレークシティパラリンピックの予選以来、8年ぶりの勝利だった。
第1ピリオド 先制点はカナダ
カナダはどの選手も“上手さ”があるが、なかでもフォワードのGreg WESTLAKE、Brad BOWDEN、Billy BRIDGESの3選手は、加えて抜群のスピード、パックコントロール、ボディバランスを兼ね備えている。日本はこの「最強フォワードライン」を徹底的にマーク。マンツーマンでブロックし、突破されても2枚、3枚とディフェンスをかぶせて、カナダの攻撃リズムを崩した。
だが、リンク中央付近で激しい攻防からBRIDGESと石田真彦(DF)が接触。日本がペナルティをとられた。そして、キルプレー中の9分56秒にMarc DORION(FW)がゴール前に詰め寄り、しぶとくシュート。日本の守護神・永瀬充が一度目は体で、2度目は右腕で止めたが体勢を崩し、パックがこぼれたところをDORIONに押し込まれた。
第2ピリオド 遠藤の1発で同点に
先制点を挙げられた日本だが、焦りはなかった。前半、相手ディフェンスを引きつけてパスをつなぎ、シュートを放つなど、自分たちの攻撃の形を作ってゲームメーク。そして、日本の丁寧なボディチェックはじわじわとカナダを追い込む。7分33秒、攻めあぐねるカナダのパスをリンク中央付近で遠藤がカット。そのままゴール前に持ち込み、ゴール右隅に強烈なスライドシュートを決めた。
このあと、BOWDENに強烈なシュートを放たれ、ヒヤリとする場面もあったが、ここはゴールポストにはじかれノーゴール。日本の勢いが、ツキを呼び込んだようだった。
第3ピリオド 上原の鮮やかなシュートで逆転
2ピリを終わり、シュート数こそカナダが14本、日本が8本と、カナダが上回っているが、ここまでの流れは日本。だが、自国開催のパラのホッケー競技で、絶対に「負け」は許されないカナダは、開始早々に猛攻をしかける。対して、意地でも止めたい日本は、まさに全員が全身全霊をかけてディフェンス。GK・永瀬も神がかり的なファインセーブを連発して、ゴールを割らせなかった。
2度のタイムアウトを挟み、運命の終盤でチャンスを手にしたのは日本だった。混戦からパックを奪い、上原大祐(FW)と高橋和廣(FW)がダッシュ。そして見事なコンビネーションでパスをつなぎ、最後は上原が鮮やかなシュートで追加点を決めた。時間は13分47秒。「絶対勝つ」という気持ちが形になってあらわれた、価値ある1点だった。
その後、ゴールキーパーを上げて全員攻撃をするカナダに対して、気を緩めずに最後まで守る日本。試合終了16秒前には、日本陣地での混戦から、外に出されたパックが、そのままスルスルと誰もいないゴールに一直線。これが3点目となり、試合は終了。落胆と歓喜がうずまく会場の熱気はピークに達した。
いつも、一歩も二歩も前にあったカナダの背中。今日、ついにそこに並び、そして追い越した日本代表。リンクの上では、いつまでも、いつまでも、彼らの涙と笑顔が入り混じった歓喜の輪ができていた。
試合後、カナダのJeff SNYDERヘッドコーチは、「僕らにもいいチャンスがあったけど、日本は本当にすごかった。(日本の攻撃は予想外だったか、という報道陣の質問に対して)いや。僕らは本当に彼らを尊敬する。本当にタフなゲームだった。ここに来るのにものすごく頑張ってきたのに、すべてを失ってしまった」と話した。
◆第一試合スコア
日本 0-1-2=3 (①G遠藤/②G上原、A高橋/③G遠藤)
カナダ 1-0-0=1
◆試合後の選手のコメント
GK・永瀬充「すごくうれしい。今日はゲームを楽しめた。パックがよく見えていて、混戦で選手の影になって見えないパックも、どこにあるのか見えていた感じだった。やっと自分らしいプレーができた」
DF・石田真彦「本当にうれしいです。長野パラリンピックの前からこの舞台を目指してやってきて、4回目にしてここまで来ることができた。感無量です。カナダはフォアチェックが強いですが、ひとつタイミングをずらせば立ち上がるチャンスはある。日本はそのマンツーマンチェックがうまくできたのがよかった。遠藤が2ピリで早めに点を決めてくれたのもよかった。日本がホッケーでカナダに勝つということは、健常の世界も含めて、歴史的なこと。最高です。決勝は、これまで培ってきたスキルをすべて使い切って、金メダルを獲ります」
FW・上原大祐「今日はアップ中から調子がよくて、(得点した場面では)カズ(高橋)からパスをもらった瞬間に、相手ゴーリーが動いたのを見て、取れると思いました。完全にアウェーでしたが、このホッケーの国でカナダを倒すのは、最高に気持ちいいです。試合前、監督には“カナダに9999回負けたとしても、この1回だけは勝て”と言われた。しっかり試合をして、1万分の1を我々が取った!今日は危ない場面も、しっかり守りきれたのがよかった」
キャプテン・DF遠藤隆行「カナダはシュートもチェックも個々の能力が高くて、実は自分はカナダはイヤだなと思っていたけど、チームのみんなが盛り上げてくれた。これが団体競技の強みだと思いました。個人では適わなくても、チームで勝った。ほんとうに大きな一勝だと思います。(1点目の)あのパスカットは、我ながら上手くいった思います(笑)。自分にとって、やばいくらいのBIG WINだと思いますね。スレッジホッケーはなかなか日の目を見られない時代が続きましたが、本当によく頑張ってきてくれたなと思います。本当にいいチームです」
中北監督「これまでカナダと何戦も戦って、彼らの強いチェックに耐え続けた。慣れるのに時間はかかりましたが、最後に最高のパフォーマンスをしてくれましたね。今日、一番光った選手は伊藤です。最高の試合をした。彼がカナダのキーマンであるBrad BOWDENを抑えてくれた。よく成長したなと、感動しました」
(取材・文/荒木美晴、撮影/吉村もと)