〈東京パラリンピック〉陸上/男子1500m T52(8月29日、オリンピックスタジアム)
陸上男子1500mで、佐藤友祈(モリサワ)はパラリンピック記録を更新する3分29秒13で金メダル、上与那原寛和(SMBC日興証券)は3分44秒17で銅メダルを獲得し、佐藤、上与那原ともに400m と同じ色の2つめのメダルを手に入れた。
リオ大会の金メダリスト、レイモンド・マーティン(アメリカ)は、これまでスタートから抜けだすスタイルだったが、今回初めて佐藤のうしろにピタリとつく戦略に出た。佐藤を風除けにして、残り200mで追い越そうというのだ。
金メダルと自身の持つ世界記録更新を公言してきた佐藤だが、マーティンの新たな戦略に気付き、1周目くらいに「世界記録更新を狙いにいくのではなく、今回は金メダル獲得に照準を当てる」と心を決めた。先頭を走りながらも極力パワーを温存して、一気に突きはなす。レース中に急遽変更したこのプランのとおり、佐藤は最後の直線でマーティンを引きはなし、400mに続き二冠を達成した。
世界記録をあえて狙わず金メダルをとりに行く。そう自分で決めた展開だけに、世界記録更新はならなかったが、「今回の金メダル獲得とパラリンピック記録更新には価値がある」という。佐藤は「いまは自分自身に“お疲れさま”、と言いたい」と満足そうな表情を浮かべた。
そして上与那原は、大会直前にクラス変更を余儀なくされて、同じレースに出場できなくなった伊藤智也(バイエル薬品)のことを1500mのレース中にも考えていた。「伊藤さんの思いも背負って走る」、そう決めた上与那原も自己記録を更新するタイムで走り抜いて、3位に食い込んだ。
同日、伊藤はより障害が軽いクラスのT53で400mに挑み、予選6位で決勝進出はならなかったが、57秒16という自己記録を更新し、アスリートとしての矜持とベテランの意地を見せた。
(取材・文/山本千尋、撮影/佐山篤)