首にかけられたのは、一番いい色のメダルではなかった。だが、選手たちは誇らしげに銀メダルを見つめ、笑顔で互いをたたえ合った。
ボッチャの混合団体(BC1−2)は現地時間12日、決勝が行われ、日本はタイに4−9で敗れた。この競技では史上初のメダル獲得の快挙。主将の杉村英孝(伊豆介護センター)は、報道陣の前でメダルを手にして、「重みを感じます。このメダルは日本ボッチャ界の大きな一歩。多くの人にこの競技のことを知ってもらうきかっけになれば」と話した。
「ボッチャ」はイタリア語で「ボール」を意味する。脳性まひなど運動機能に重い障がいがある人のためにヨーロッパで考案された対戦型のスポーツ。先攻が目標となる白い「ジャックボール」をコート内に置き、そこに赤と青のボールをそれぞれ6個ずつ、投げたり転がしたりしてどれだけジャックに近づけるかで得点を競う。ボールは主に皮革製か合皮製で、弾まず転がりにくい仕様になっている。表面は柔らかく、縫い目によって軌道が変わるため、一つひとつのボールの癖とコートとの相性を見極められるかどうかが試合展開に影響する。カーリングに似た奥が深いスポーツで、パラリンピックでは人気競技のひとつだ。
会場を沸かすスーパーショットで躍進
日本代表は決勝で敗れはしたが、各試合で素晴らしい技術と戦術を見せて会場を沸かした。たとえば、狙ったところにボールをピタリと寄せる技術はボッチャ最大の見どころで、準々決勝の中国戦では、そんなスーパーショットがさく裂。最終の第6エンドで3点差を追いつかれ、悪い流れで入ったタイブレーク。中国が確実にジャックの周りにボールを集め、日本にとって不利な状況になったのだが、廣瀬隆喜(アルムの森ペーターの丘)が最後の投球で、敵のボールを弾き飛ばしたうえに見事にジャックに寄せ、勝利に導いた。
続く準決勝でも、世界7位の日本は精度の高いショットで同5位のポルトガルを撃破。ポルトガルはジャックをコートの右奥に置く駆け引きをしてきたが、それも日本チームは「想定していた」。投球が目標から逸れるなどミスをする相手に対し、日本はボールとボールの間をピンポイントで通してジャックに寄せ、突き放した。ポルトガルは4年前のロンドン大会準々決勝で敗れた相手。見事、パラリンピックでリベンジを果たした。
とはいえ、世界ランク1位で図抜けた強さを見せるタイには、力の差を見せつけられた。先制した日本は、第2エンドで投球場所から遠い地点にジャックを置くロングボールで勝負に出るが、正確なショットを得意とするタイには通用せず。逆に日本は寄せきれず、逆転を許した。続く第3エンドでは、ジャックの前を固めるタイのボールを弾き飛ばすが、やはりタイは動じず、確実に寄せて得点。結局、日本は大量4失点を喫した。
だが、「できることはすべてやった」(杉村)からこそ、世界トップとの差を再確認できた。「タイのように、ここぞという場面でのショットの精度を上げることが、次へのステップにつながる」と選手は前を向く。
強化を図った“3人の特性を生かした戦術”
個々のレベルがそのままチームの強さに比例するわけではない。チームワークと戦術で、ランキング上位の国にも勝つことができるのが、チーム戦だ。1チームは3人で、その中により障がいの重いBC1クラスの選手が最低一人いなくてはいけないというルールがある。
日本は杉村がチームの司令塔。相手の何手も先を読んで戦術を練り、誰がどこに投げるかを的確に指示していく。BC1クラスながらロングボールも投げられる藤井友里子(北陸銀行事務センター)と豊富な経験値でチームを支える木谷隆行(太陽の家)、そして相手ボールを弾き飛ばす力強いショットが持ち味のエース・廣瀬と、バランスの取れたメンバー構成だ。
パラリンピック初出場だった2008年の北京大会は予選敗退。メダルを狙って挑んだ前回ロンドン大会は7位に沈んだ。悔しさをバネにさらなる強化に着手。練習では技術で上達を目指すより、わざと厳しい局面を作って、それを打開していくトレーニングに時間を割いた。海外遠征の回数も増やし、実戦でさらに磨きをかけた。この4年間で、もっとも力を入れたのは、コミュニケーションを密にすること。チーム戦はひとり2球だ。その2球からさまざまなイメージを膨らませ、3人それぞれの特性を生かした戦術を考え、共有し、その積み重ねでリオでのメダルに行きついた。
「ボッチャブームを巻き起こしたい」
ボッチャはパラスポーツ特有の競技であるためか、日本では一般的な認知度は残念ながら高くない。そのため、選手は自らが講師となって学校やイベントなどでボッチャの魅力を伝えながら、競技活動を続けている。今回の銀メダル獲得で、競技のことを初めて知ったという人も多いのではないだろうか。
廣瀬はこう語る。
「東京パラリンピックでも応援してもらいたい。そのためには、選手が最高のパフォーマンスをし、まずは日本選手権を満員にする。そこから東京に向けて、日本でボッチャブームを巻き起こしたいです」
現地時間13日にスタートする個人戦でも、メダル獲得なるか。「火の玉ジャパン」の愛称のように、熱く、魂を込めて、前に向かって進んでいく選手たちに注目したい。
(取材・文/荒木美晴、撮影/吉村もと)