今大会には、これまでの国内大会にはなかった大きな特徴があった。それは、一般の施設を会場とし、市民に公開したことだ。その大きな目的について、日本ゴールボール協会の西村秀樹副会長は、こう話す。「ゴールボールを普及させるひとつの足がかりにするには、やはりたくさんの人に、まず“見てもらうこと”が第一だと考えたのです」。
というのも、これまでのゴールボールの大会は、主に地域の障害者スポーツセンターや盲学校が利用されていた。それは、選手が慣れ親しんだ場所であり、アクセスの良さや点字の整備などを含むバリアフリー環境が整っているためだ。「自分で車を運転できない選手は、どうしても行動範囲が狭くなり、スポーツする環境も限られてしまう。コートの中では、まるで見えているように動き回る彼らですが、体育館の外では同じように動けない。それが視覚障害の弱点です」と西村さん。
また、たとえば車椅子バスケットボールのように、一般の競技のルールを一部変えて行う競技と異なり、ゴールボールのような視覚障害者のために考案された種目は、言葉による競技の説明だけでは理解されるものではなく、普及しにくいのが実情だ。さらに、「音」が重要になるために、試合中の声援や鳴り物を使った応援ができるタイミングが制限されており、それがスポーツ観戦の精神に相反するとして、一般に認知されにくい要因になっているという。そこには、競技の特性が普及活動の壁になるという、大きなジレンマが存在しているのだ。
選手権大会の開催は、毎年東日本と西日本で交互に行っている。今年は西日本開催の年。「まずは行動に出ないと」と、滋賀県守山市に在住する西村さんは、地元での一般公開に向けて、協会のバックアップを受けながら広報活動に汗を流した。その結果、滋賀県や守山市などの後援と、企業の協賛が実現した。市の職員は大会補助員として、また地元の大学の学生らのボランティアで参加した。一般市民の観客動員数は目標には届かなかったが、会場には市の広報誌を見たり口コミで訪れた人たちの姿が。「多方面の方々の協力をいただき、大会を運営できたことに感謝します。一度で終わらず、これから続けていくことに大きな意味がある」と、西村さんは表情を引き締める。
嬉しい出来事もあった。大会を後援しているバス会社が、当日の朝、選手の移動のために最寄りのJRの駅からバスを用意してくれたのだ。車内では、大会のアナウンスもあり、選手らは大喜び。「とてもありがたかったですね。打てば響くような関係を築くきっかけにしたい。そしてそのつながりを、協会として今後どうつなげていくか、課題として取り組んでいきたい」。
来年は関東での試合。今年の経験を活かした今後の取り組みに、注目したい。
(写真・記事:MA SPORTS/荒木美晴)
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