「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」は23日、名古屋市東山公園テニスセンターで車いすテニスのクアードシングルス決勝が行われ、第2シードの宇佐美慧(LINEヤフー)がノーシードから勝ち上がったJAIYEN Booncherd(タイ)を6-4、6-4で下し、金メダルを獲得した。
対戦相手のJAIYENは男子クラスでプレーしたのち、2024年にクアードクラスへ転向。準々決勝で第1シードの川野将太(シーズアスリート)、準決勝では第3シードの台湾選手を破って決勝に進出した。一方の宇佐美も、初戦となった準々決勝、そして準決勝ともストレート勝ちで勝ち上がった。両者がシングルスで対戦するのは、この決勝が初めてだった。
第1セットは、相手の低いフラット気味のショットにミスを誘われ、先にブレークを許した宇佐美。しかし、第3ゲームですぐさまブレークバックを果たす。3-3で迎えた第7ゲームでは、相手のサーブコースを読み切り、リターンエースなどでポイントを重ねて再びブレークに成功した。続く第8ゲームもラブゲームでキープし、主導権を握って第1セットを先取した。
第2セットも冷静なショット選択で試合を組み立てた宇佐美。迎えたチャンピオンシップポイントでは、「試合前から狙っていた」というアドサイドからワイドに切れるフラット系のサーブを見事に決め、金メダルをつかんだ。
試合終了後、宇佐美は涙を浮かべながら、見守ったコーチ陣らと喜びを分かち合った。世界国別選手権(WTC)での代表歴はあるものの、個人種目で日の丸を背負って戦うのは今大会が初めて。パリ2024パラリンピックの出場を逃してからの数年は、悔しさを糧に「このアジアパラだけを考えて」強化に取り組んできた。テニスを辞めようと考えたこともあったといい、その苦難を乗り越えてたどり着いた舞台で、単複二冠を達成。「最高です」という言葉には、積み重ねてきた努力が実を結んだ喜びがにじんだ。
宇佐美が力を注いできたのは、自身の競技力向上だけではない。上肢にも障がいがある選手が競うクアードクラスは、男子や女子のクラスに比べて注目を集めにくい面もある。しかし、ラリーの中では相手の意表を突くショットや、数手先を読みながら相手を追い込む駆け引きが繰り広げられる。宇佐美はメディアの取材に応じるたびに、そうしたクアードならではの魅力を伝えてきた。
この日の決勝はセンターコートの第1試合に組まれ、前日のダブルス決勝を上回る観客が声援を送った。宇佐美は「派手なプレーでも、泥臭いプレーでも、同じ1ポイント。それを今日、たくさんの皆さんに見てもらえたと思う。これからもっと結果を出して、クアードクラスを日本で広めていけたら」と語った。
悔しさを糧につかんだ二冠は、宇佐美にとって大きな節目となった。自身の結果でクアードクラスの魅力を伝え、競技の認知度を高めていく。涙の金メダルを新たな一歩に、宇佐美の挑戦は続く。
(取材・文/荒木美晴、写真/植原義晴)
MA SPORTS 代表者、ライター