車いすテニス — 2012/5/20 日曜日 at 1:03:51

ジャパンオープン、18歳の新鋭・フェルナンデスが混戦の男子を制す!

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大会終了後にボールボーイらと写真におさまる優勝者たち/撮影:吉村もと
大会終了後にボールボーイらと写真におさまる優勝者たち/撮影:吉村もと

5月14日から福岡県飯塚市で開催されていた「飯塚国際車いすテニス大会」(ジャパンオープン2012/スーパーシリーズ)が19日閉幕し、強豪ひしめく男子シングルスはガスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)が、女子シングルスはサビーネ・エラーブロック(ドイツ)がそれぞれ初優勝を飾った。また、クァード(四肢まひ)を制したデヴィッド・ワグナー(アメリカ)は大会6連覇を達成した。右肘のケガから復帰した国枝慎吾(ユニクロ)は、準決勝で敗退した。

今大会は、ロンドンパラリンピックの最終選考を兼ねており、国内外から約140選手が参加。世界ランキング上位の選手も多数集結し、ロンドンの前哨戦としてレベルの高い熾烈な争いが繰り広げられた。

世界ランク1・2位を撃破してスーパーシリーズ初優勝

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精神力の強さも発揮したフェルナンデスは今後の注目の選手となりそうだ

世界ランキングトップ10が参戦した混戦の男子シングルス。今大会の“台風の目”となったのが、ジュニアの世界NO.1のフェルナンデスだ。シニアの世界ランキングでも15位(2012年5月14日現在)につけているフェルナンデスは、現在18歳。1回戦では、過去2戦して一度も勝利したことがない世界ランキング1位のマイケル・シェファーズ(オランダ)を、フルセットの末に撃破。その勢いのまま準決勝でも格上のロナルド・ヴィンク(オランダ)を破り、ファイナルまで勝ち上がった。

その決勝の相手は、世界ランク2位のステファン・ウデ(フランス)。経験豊富で試合巧者、準決勝では国枝に勝利しているトッププレーヤーだ。そのウデとは過去の戦績2戦2敗。いずれもフルセットまで戦って落としている。試合前は「ウデは素晴らしい選手で簡単には勝てない」と話していたフェルナンデスだが、序盤から抜群のボールコントロールで深い場所に打ち込み、主導権を握った。

第2セットの中盤には手に汗握るラリーの応酬が続く接戦に。そこでも、フェルナンデスは焦ることなく、強烈なバックハンドのダウンザラインを打ち込むなど、優勢に試合を進めた。追う展開となったウデは、コートを広く使ってボールを散らし、チャンスの場面で確実にポイントを重ねたが、フェルナンデスの勢いを止めることができなかった。スコアは、6-3、6-3。ウデは試合後、疲労感をにじませた表情で「彼はとてもよかったね」と18歳のチャンピオンを称えた。

フェルナンデスは、「スーパーシリーズの決勝の舞台に残るのも初めてだし、優勝できるなんて言葉に表すのが難しいほど嬉しいです。この飯塚での1週間を通して、自信がついてきました」と喜んだ。

照準はロンドンに、国枝が実戦に復帰してベスト4!

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観客も固唾をのんで見守った国枝のプレー。「世界のトップが集まる復帰戦で4強に残ったこと、肘の痛みなく試合をこなすことができたのはよかった」

2月に右肘の手術をして以来、リハビリとトレーニングに励んできた国枝慎吾がコートに戻ってきた。実践としては、昨年9月のUSオープン決勝以来、実に8ヵ月ぶりとなった今大会。

準決勝でウデに敗れ、「序盤からボールコントロールに苦しみ、自分の予測力が発揮できなかった」と悔しさをにじませたものの、3回戦では世界ランク6位のマイケル・ジェレミアス(フランス)に完勝するなど、収穫もあった。

リハビリ中は、早くテニスをやりたい、というはやる心を抑えながら、都内の施設でトータル1ヵ月間の泊まり込みの特訓を行った国枝。あえて周りとの接点を遮断する環境のなかに一人飛び込み、トレーナーと二人三脚で、体幹を徹底的に強化。朝から晩まで、1日に4〜5時間はマットの上で腹筋や背筋を行う「逃げ出したくなるような」トレーニングに耐えきった時、「筋力と瞬発力が増し、パワーがみなぎっていた。チェアーワークのタイムは、手術前より良かったほど」と明らかな身体の変化を手に入れた。

3月下旬に競技用車いすに乗り、続いて4月初めから柔らかいスポンジボールを使ったトレーニングを開始した。そこから少しずつプレッシャーのあるボールに質を上げていき、実戦で使うボールで練習を行うようになったのは、今大会の3週間前のことだ。

肘の負担を少しでも減らすため、わずかだがラケットのガットを衝撃の少ないものに変えるなど、慎重な姿勢で臨んだ復帰戦。試合を振り返り、丸山弘道コーチは「いろんな感覚が少し戻ってきた。でも、自分が打ったボールが次にどこに帰ってくるかという、彼にしか分からないアンテナの受信感知度が下がっている。これから、しびれるような修羅場を何度もくぐることになるでしょうね」と語る。国枝もまた、「今大会を皮切りに、レベルを上げていきたい」と前を向く。

来週は韓国でのワールドチームカップ、その後は全仏オープンなどに出場予定とのこと。「ベストの状態に戻るには、実践に復帰して3カ月かかると考えています。このジャパンオープンがちょうどロンドンの3カ月前。これから試合をこなせば、経験的にも満足した状態でパラリンピックに臨めると思っています」

国枝のロンドンパラリンピックへの道、最終章が幕を開けた。

女子は強豪オランダ勢を破ったエラーブロックが頂点に

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鋭いコースにショットを打ち込み、リードを広げたエラーブロック

女子シングルスは、世界ランキング1位を独走するエスター・バーガー(オランダ)は参戦しなかったものの、上位選手が集結。決勝は世界ランク4位のマージョレン・バイス(オランダ)と5位のエラーブロックの対決となった。試合は、序盤から互いのサービスをブレークする展開に。エラーブロックはサーブが不安定で、リードする場面でもダブルフォルトでリズムを崩した。だが、プレー面では積極的に攻撃をしかけ、バイスのミスを誘ってポイントを重ねた。最後は、バイスのショットがベースラインを越えてゲームセット。

勝利が決まった瞬間、叫び声をあげながら両手を挙げて喜ぶエラーブロック。観客席からの大きな拍手に手を振って応え、「メジャー大会のファイナルでとてもナーバスになっていたけど、勝てて幸せ」と笑顔を見せた。

また、クァードで大会5連覇中のワグナーは、電動車いすで戦うニック・テイラー(アメリカ)に6-0、6-0で完勝した。対戦相手のテイラーは今大会のダブルスのパートナーでもある。攻撃スタイルも戦略も知り尽くした相手だけに、「ニックのサーブを上手く返せれば勝てると思っていた。それができたことが勝因」と冷静に分析。ライバルに強さを見せつけた。

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男子ダブルスでフランスペアに競り勝ち優勝したシェファーズ・エグバーリンク組(オランダ)

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優勝を決めて喜ぶワグナー。クァードも世界ランク上位が参戦した

(取材・文/荒木美晴、撮影/荒木美晴・吉村もと)

【外部リンク】→web Sportiva/<車いすテニス>強豪ひしめく復帰戦で国枝慎吾が4強、不屈の精神でロンドンへ