リオ2016, リオパラリンピック, 夏季競技 — 2016/9/26 月曜日 at 11:16:23

【リオ2016】「金ゼロ」でも見えた日本の好材料、いかにしてパラ強化につなげるか?

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写真は10月に行われたリオ2016パラリンピック競技大会特別賞授与式
写真は10月に行われたリオ2016パラリンピック競技大会特別賞授与式(撮影/瀬長あすか)

9月7日から12日間にわたって行われたリオデジャネイロパラリンピック。日本は今回から正式競技となったトライアスロン、カヌーを含む17競技に選手を送り込んだ。視覚障がい者柔道57キロ級の廣瀬順子(伊藤忠丸紅鉄鋼)が女子として同競技初メダルの銅を獲得、車いすテニス・男子ダブルスの国枝慎吾(ユニクロ)、齋田悟司(シグマクシス)組も銅メダルに輝くなど、連日のメダルラッシュに沸いた。

その日本代表選手団のメダル獲得数は銀10個、銅14個の計24個で、前回ロンドン大会の16個を上回ったものの、金はゼロ。閉幕後の記者会見で大槻洋也団長は、目標の金メダル10個を達成できなかったことについて「選手は頑張った。その結果、金ではない色のメダルだったということ」と言葉を振り絞った。

大会終盤の17日、走り幅跳び(T42)の世界記録(当時)を4月に更新した山本篤(スズキ浜松AC)が、悲願の金メダルにチャレンジした。山本は4回目の跳躍で自己記録に並ぶ6メートル62をマーク。だが、ライバルの一人、ハインリッヒ・ポポフ(ドイツ)が1回目の跳躍でマークした6メートル70に8センチ及ばず、結果は銀メダル。大舞台で自己記録タイを記録する勝負強さを見せたものの、本人は「金メダルを目指してきたので銀メダルは悔しい」と唇をかんだ。

日本選手団の金メダル第1号を熱望され、プレッシャーもあっただろう。しかし試合後に「ここで金を取れば英雄になれると思っていた」と強いメンタリティーで臨んだと話した。

競技環境がメダルに直結

スズキ浜松ACに所属し、大阪体育大を練習拠点にする山本は、早くから練習に専念できる環境を築き、世界選手権2連覇(2013年、15年)などの実績を残してきた。ロンドン大会当時、日本で山本のようなパラアスリートは少なかったが、13年9月に東京パラリンピック開催が決定して以降、選手たちを取り巻く環境は格段に変化。トップ選手や競技団体を支援する企業も増え、どのパラ競技も強化合宿や海外遠征の回数が増加傾向にある。

リオでは日本に金メダルこそ生まれていないが「競技環境の良い選手が結果を残し始めている」と山本は実感している。

また、今大会は、団体競技のウィルチェアーラグビーも初めて銅メダルを獲得した。予選では敗れはしたものの、銀メダルを取った米国を延長戦まで追い詰め「世界一が見えた」とエースの池崎大輔(三菱商事)は手応えを語っている。

その躍進のひとつの要因に、「競技環境の変化」を挙げることができる。ウィルチェアーラグビーの日本代表は、実は12人中9人が「障がい者アスリート」として企業に雇用されており、競技優先の勤務形態で働いているのだ。

そのため、選手たちが平日に集まって、フィジカルの強化やコミュニケーションを深める自主的な合宿も可能になった。日本をメダル獲得に導いたあうんの連携プレーは反復練習が生んだものだった。

このように競技環境が改善されている中で、まだ不足しているものは何なのだろうか。水泳で銀2つ、銅2つ(視覚障がいS11)のメダルを獲得した木村敬一(東京ガス)のコーチで、五輪選手の指導も担当する日本大の野口智博教授は話す。

「国内各地でもっと長水路のプールが使えるようになるとうれしい。現状は、トレーニング施設を使うにも制限があるので……来週にでも使えるようにならないもんですかねぇ」

現状、大学の施設などで練習する選手たちも多いが、練習場所の確保に頭を悩ませている選手がまだまだ多いようだ。

強化が進む他国のパラ事情

ところで、今大会は、不安視されていた入場券の販売率も、ふたを開けてみれば約85パーセントの売れ行きで、特に水泳やブラインドサッカーの会場は大歓声に包まれていた。

水泳ではダニエル・ディアス(ブラジル)が圧倒的な強さで金4つを含む計9つのメダルを獲得し、ブラインドサッカーは地元ブラジルが4連覇を達成したからだ。

ブラジルは、金メダル14個でランキング8位と自国開催で存在感を見せ、大会を盛り上げたが、過去をたどれば、08年北京大会、12年ロンドン大会や冬季大会でも、地元選手が活躍している。

今大会は、国家ぐるみのドーピング問題でロシア勢が不在。選手層が厚く、障がい者専用のトレーニング施設も整備されている中国が107個もの金メダルを獲得して世界を驚かせたが、2位は前回開催国のイギリスで、同国内に障がい者スポーツが浸透し、長期的な強化策が成功していることを示した。

イギリスの強さが特に光った自転車競技では、「機材の開発が進んでいる」(ロードタイムトライアルC3で銀メダルを獲得した藤田征樹/日立建機)、「種目を絞って強化を図っている」(タイムトライアル・視覚障害で銀メダルの鹿沼由理恵/楽天ソシオビジネス)、「競技パートナーの選手層も厚い」(鹿沼のパイロット・田中まい/ガールズケイリン)という。

東京へ、日本選手が見せた希望

次回開催国の日本は、イギリスをお手本に、メダルの数を伸ばしていきたいところだが、ロンドンパラリンピックの招致が決まる前から強化を進めてきたイギリスに対し、日本は自国開催が決定してから強化をスタートさせた。近年、パラリンピックでは次回開催国の活躍も目立つが、スタートに出遅れた日本は、メダル総数で見ても17番手と、存在感をアピールできなかった。

だが、今回の日本選手の「銀」や「銅」の活躍の中には好材料もあった。若手の活躍だ。ロンドンパラリンピックをテレビで見てパラリンピックの舞台を目指すようになった陸上T52クラスの佐藤友祈(WORLD−AC)が、400メートルと1500メートルで銀メダルを獲得。在学する日本体育大の発掘事業で短距離を勧められ、ハンドボールから転向し陸上400メートル(T47)に出場した辻沙絵が、競技歴1年半で銅メダルを手にしたのである。特に佐藤は、積極的な走りで、両種目を制した世界記録保持者のマーティン・レイモンド(米国)を捉えかける白熱の展開を繰り広げた。

金メダルこそ届かなかったが、リオの地で力強さを見せた日本選手たち。今後、強化をさらに軌道に乗せ、また競技環境の整備も進めることで、東京、そして東京以降につながる活躍を期待したい。

(取材・文/瀬長あすか)

※この記事は、『Sportsnavi』からの転載です。