パラパワーリフティング — 2017/12/18 月曜日 at 23:31:05

腕一本の力勝負、“心技体”でめざせ日本一!

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男子107㎏級の中辻克仁は200㎏に挑戦! 今大会の年間最優秀選手賞に選ばれた=日本体育大学東京・世田谷キャンパス記念講堂

「第18回全日本パラ・パワーリフティング選手権大会」が17日、日本体育大学東京・世田谷キャンパス記念講堂で行われ、男女あわせて45名の選手が記録に挑戦した。

初出場の選手も多数参加

パラ・パワーリフティングは2020年東京パラリンピック開催が決まってから競技者数が増加。今大会は45名のエントリーのうち、7名が初出場だった。

女子67㎏級の中学3年生の森﨑可林(個人)は、スポーツ庁が推進する選手発掘事業「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」に参加し、今大会に出場。競技を初めてわずか3カ月ながら堂々とした試技を披露し、「試技の時は他の選手が応援してくれて、バーを挙げた時の達成感を感じた。個人競技だけど、チームワークが大事だと思った」と初体験を振り返った。

また、男子72㎏級の右大腿切断の樋口健太郎(パワーハウス)は9月末に交通事故に遭い、10月に手術を終えたばかりだが、入院中に競技の存在を知り、病院の許可を得て標準記録突破トライアルに挑戦。見事クリアし、今大会に出場したという。受傷前はスポーツトレーナーをしていた経験もあり、第3試技で當山龍(沖縄)と同じ136㎏をマーク。体重が當山よりも軽いため、初出場にして初優勝という快挙を遂げた。脚を固定して行うパラ・パワーリフティングは初めてとあって、「フォームが難しい。(胸の上でバーを)止める精度を上げていければ、もっと楽しくなると思う」と語った。

力を見せたトップ選手たち

スランプ脱却で自己新をマークしたマクドナルド山本恵理

トップの選手は日本代表としてメキシコで行われた世界選手権から1週間前に帰国したばかり。男子49㎏級の三浦浩(東京ビッグサイト)、80㎏級の宇城元(順天堂大)、大堂秀樹(個人)は、疲労感をにじませませながらも、それぞれのクラスで優勝。女子50㎏級のマクドナルド山本恵理(日本財団パラリンピックサポートセンター)は第2試技で自己ベストを更新。今年は思うような成績をあげられず、世界選手権でも記録なしだっただけに、「不振を乗り越え、自信がついた」と笑顔を見せた。

男子65㎏級は、今年5月の体験会に参加して競技を始めて以来、成長を続ける篠田雅士(パワーハウス)、72㎏級の日本記録保持者で階級を変更した佐野義貴(アクテリオンファーマシューティカルズジャパン)ら注目の選手がそろった。そんななか記録を伸ばしたのが、今大会の最年長、57歳の城隆志(オムロン太陽)。城は第3試技で130㎏を挙げ、混戦を制した。自己ベストには及ばなかったが、「練習をすればするだけ結果につながる」ことを証明し、ベテランの存在感を示した。

最多エントリー数の男子59㎏級は、世界選手権に出場した西崎哲男(乃村工藝社)が54㎏級から変更して挑み、133㎏の日本新記録を樹立。さらに特別試技で138㎏を挙げ、会場を沸かせた。今回は疲労による体重調整のための階級変更で、今後はもともとの54㎏級に戻す予定だというが、「138㎏は練習でも挙げたことのない重さ」で、来年のビッグトーナメントであるアジア選手権に向けて、手ごたえを感じた様子だった。一方、前日本記録保持者の戸田雄也(個人)は2位に甘んじたが、彼もまだ競技を初めて2年と短い。今回はリオパラリンピックにも出場した西崎と同じステージで戦い、「刺激を受け、ストッパーが外れた感じ。西崎さんが出した記録は目標になるし、それを目指して頑張りたい」と語り、前を向いた。

ジュニア59㎏級の奥山一輝(順天堂大)、同107㎏超級の松崎泰治(個人)は、12月だけで世界選手権、アジアパラユース大会、そしてこの全日本と3大会に出場。疲れ気味だったが、グッドパフォーマンスを披露した。来年度からシニアに参戦する奥山は、「階級がまだ定まっていないので、(一緒に練習している)宇城さんと相談してやっていきたい」と話した。

男子97㎏級の馬島誠(個人)は147㎏を挙げ、自身が持つ日本記録を更新。107㎏級の中辻克仁(個人)は、第3試技で成功すれば日本人初となる200㎏に挑み、惜しくも失敗したが、会場を大いに沸かせた。中辻は、今年から日本人選手をサポートする世界的指導者であるジョン・エイモス氏の指導を受けて、着実に記録を伸ばしている選手のひとり。「それまでは190㎏が精いっぱいだったけれど、ジョンの指導を受けてから安定して200㎏に挑戦できるようになっている。次のステージに来ている」と、言葉に力を込める。

集合写真におさまる選手たち。来年のアジア選手権に向け、練習を重ねていく

今大会は来年9月のアジア選手権の選考対象大会。アジア選手権は、東京パラ出場を目指すうえでは出場が必須となる重要な大会で、多くの選手がこのアジア選手権を次の目標に据えている。世界のトップクラスの選手と日本人選手の記録には、まだ大きな開きがあるが、自国開催の東京パラリンピック出場に向け練習を重ね、どの選手も確実に成長を見せている。アジア選手権でどのような活躍を見せるか、楽しみだ。

(取材・文・撮影/荒木美晴)