リオ2016, リオパラリンピック, 車いすテニス — 2016/9/16 金曜日 at 21:22:59

【リオ2016】銅メダルの上地結衣、東京で「打倒オランダ」の決意

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上地結衣=オリンピックテニスセンター

リオで最後に臨んだのは、決勝の舞台ではなかった。あと一歩届かなかった金メダル。それでも気持ちを切り替え、3位決定戦では最後のショットまで全力で追いかけた。あふれる涙は激闘の証。上地結衣(かみじ ゆい、エイベックス・グループ・ホールディングス)は、車いすテニス日本女子選手として初めて銅メダルを獲得し、パラリンピックのメダルホルダーとなった。

リオパラリンピック女子シングルスの3位決定戦。上地はディーデ・デ・フロート(オランダ)と対戦し、6-3、6-3で勝利した。第1セット序盤は互いにブレークする展開に。第5ゲームをキープすると、鋭いコースで勝負をかけ、第1セットを奪った。続く第2セットは上地が2-0とリードするが、パワーのあるフロートがバックハンドのクロスからゲームを組み立て、プレッシャーを与えてくる。だが、「しっかりとラリーを続けていればチャンスはある」と冷静に対応して5-3と引き離し、そのまま勝利へと持ち込んだ。

5日間で、シングルスとダブルス合わせて8試合をこなした。後半はフルセットマッチが3回続き、いずれも落とした。肉体的にも、精神的にも、限界を迎えていた。「これだけのゲーム数をして、これだけ負けたこともなかった」

そんな本音をぽろりとこぼす上地を支えたのは、メダルへの想い、そして支えてくれた人たちへの感謝の気持ちだ。

スーパーショットに沸く地元ブラジル人の歓声に交じって、日本語の声援が耳に届いた。「コートの上では自分ひとりで戦っているんですけど、応援してくださっている方々の気持ちがワンショット、ワンショットに込められていたと思います」。そう語ると、ぽろぽろと涙が頬をつたった。

高校3年で出場したロンドン大会。その時は大会後にテニスをやめるつもりだった。だが、パラリンピックの雰囲気や国を代表して戦う選手の姿に改めて感動し、考えが変わった。テニスを仕事にするプロ選手となり、世界の舞台で戦う道を選んだ。2014年には全仏でグランドスラム女子シングルス初優勝。初めて世界ランキング1位にもなった。その後はライバルたちとしのぎを削り、世界を牽引してきた。

車いすテニスの選手にとって、パラリンピックこそが最高峰の舞台。上地を含め、誰もが目指す頂点の場所だ。だが、そこに厳然と立ちはだかる国がある。オランダだ。女子シングルスだけをみると、1988年のソウル大会(この時は公開競技)から、今回のリオ大会まで、実に8大会すべてで、オランダ人選手が優勝。そのうち4大会は、金・銀・銅と表彰台を独占している。その背景には、早い時期から国を挙げた選手の発掘・育成システムが確立されていることがあるが、とにかく長期にわたって強い選手が途切れない。

身長143cmと小柄な上地が、そのオランダをはじめ、体格に勝る海外勢に対抗するための秘策として取り組んできたのが、“バックハンドトップスピン”だ。強い回転をかけたトップスピンは相手コートにバウンドした後に高く跳ねる。車いすテニスではラケットが届きにくくなるため有効だ。男子では国枝慎吾(ユニクロ)が得意とするショットだが、このボールを打つには身体のひねりや強い筋力が必要になるため、女子選手でマスターする選手は少ない。上地はフィジカル的な負担をカバーするため、ハードな体幹トレーニングと体力づくりを継続し、モノにしていった。

リオのコートは「粘りがあって跳ねる」と選手は口をそろえ、ボールのスピードも落ちるため、女子の主流であるスライスは拾われやすくなる。逆に、このサーフェスならトップスピンは効果が増す。上地はリオに入ってからの練習でその感覚を掴み、試合でトライし続けた。とくに準々決勝のマリオレイン・バース(オランダ)戦では、うまく機能した。後ろに下がらされた相手は打ち急ぎ、イージーなミスを繰り返した。バースは今年の全仏オープンの覇者。強敵にも通用することが証明できた。一方で、準決勝のアニーク・ファンコート(オランダ)戦では、試合の流れをなかなか引き寄せられず、自分に有利なショットの選択に迷いが生じた。

リオでもベスト4に勝ち上がったのは、上地を除いて全員がオランダ人だった。上地は決意を新たに、こう語る。

「パラリンピックの舞台でオランダというテニス大国をいつか破り、日本も含め、ほかの国の選手で表彰台を埋めたいんです」

リオで得た収穫と課題。上地は、リオの経験から東京での雪辱を期す。

「自分のプレースタイルとして、やってきたことは間違いではなかった。東京に向けては、攻め急がず、もう少し深い球で回転をかけて展開していくこと、精度を上げていくことがキーになると思う」

加えて、今回のバックハンドのトップスピンに他のショットを多彩に織り交ぜてプレーすれば、より道は開けるはずだ。22歳のさらなるスケールアップに、期待は膨らむ。

(取材・文/荒木美晴、撮影/吉村もと)

※この記事は、『Sportiva』からの転載です。