車いすテニスのクアードダブルス準々決勝が現地時間の10日、オリンピックテニスセンターで行われた。日本の川野将太(麻生セメント)/諸石光照(フリー)組はディラン・アルコット/ヒース・デビッドソン組(オーストラリア)と対戦し、1-6、4-6で敗れた。
日本のクアード界にとって、メダル獲得は悲願。ロンドンパラリンピックでベスト4に入った川野・諸石組にその期待がかかっていたが、相手の重さのあるストロークにペースを崩された。
クアードは三肢以上に障がいがあるクラスで、握力が弱い川野と諸石は手とラケットをテーピングで固定。正確なスライスと戦略で確実にポイントをとりに行くスタイルだ。一方で、近年は身体の状態がよく、パワフルなストロークを打つ選手が増えてきている。
そうした相手への対策として、この4年間はコンビネーションに磨きをかけた。ロンドンの時はふたりが後ろで守っていたが、諸石が前に出る形に切り替えた。前衛で相手の動きにプレッシャーをかければ、後衛の川野が守る範囲が減り、クロスラリーのなかかから甘くなった球をカットし、攻撃につなげられる。その強化が花開いたのが、今年5月の国別対抗戦。準決勝でパラリンピック3連覇中の世界NO.1のアメリカペアをフルセットに追い込み、勝利した。
だが、今日の相手のオーストラリアも優勝候補。とくにシングルス世界ランキング1位のアルコットは、ダブルスでも前に出るプレーを得意とし、試合ではそのうまさが光っていた。
日本は立ち上がりからその威力のあるストロークに押され気味で、返球のスライスでミスが出るなど自分たちのペースを崩された。2セット目は終盤に驚異的な粘りを見せて追い上げるが、万事休す。ふたりは天を仰ぎ、悔しさをにじませた。
試合後、49歳の諸石は報道陣にこんなことを打ち明けた。「正直、2セット目の最後にほんの少しだけ“もう終わりなのか”というのが頭をよぎってしまったんです。でも試合が終わってから、川野君が“4年後の東京は絶対にいける”って声をかけてくれた。僕たちが追求してきたコンビネーションはまだ完成形ではない。東京で、完成したものを見せたいです」
川野もこう話す。「諸石選手に言った言葉ですが、自分にも言い聞かせるつもりで言った。下を向くんじゃなくて、負けても上をみて、前に進んでいかなきゃって」
日本の車いすテニス界には、男子の国枝慎吾(ユニクロ)や女子の上地結衣(エイベックス・グループ・ホールディングス)ら世界に誇るエースがいる。クアードはどうしてもその陰になりがちだった。「日本でクアードをもっと広めたい」。クアードの選手を代表して、川野と諸石は、ずっとこう言い続けてきた。今回、メダル獲得という目標は達成できなかったが、ふたりのテニスはリオの地に足跡を残した。そのメッセージは日本にも届いたはずだ。
「自分たちの後ろには、“クアードチーム”がいます。もちろん私たちも第一線で頑張るし、彼らも頑張ってほしい。そういった形で切磋琢磨していきたい。日本全体でクアードを盛り上げてそこでも自分は負けないぞ、という気持ちでやっていきたいです」と川野。
さらなる競技普及のために、そして自分たちのさらなるテニスの追求のために、4年後に向けてリスタートを切る。
(取材・文/荒木美晴、撮影/吉村もと)