2018平昌パラリンピック, アルペンスキー — 2018/3/18 日曜日 at 20:40:56

【Writer's eye】チェアスキー森井大輝、滑降から回転まで「オールラウンダー」の誇り

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最終種目の回転で雪質のよくない中でも滑りきった森井大輝=旌善アルペンセンター(撮影:フォトサービス・ワン/植原義晴)

チェアスキーヤー・森井大輝(トヨタ自動車)の5大会目のパラリンピックが幕を下ろした。5種目にエントリーしたうち、初日の滑降で銀メダルを獲得。最高のスタートを切ったが、続くスーパー大回転は8位、スーパー複合と大回転は途中棄権、最後の回転は4位に終わり、再び表彰台に上がることはできなかった。

17日に行なわれた回転の1本目は、硬いバーンでバランスを崩して旗門不通過となる選手が31人中16人も出た。「回転のスペシャリスト」として連覇を期待された鈴木猛史(KYB)のほか、狩野亮(マルハン)、夏目堅司(RDS)もフィニッシュできなかった。そんな荒れたレース展開のなか、意地を見せたのが森井で、まずは5位につけた。

雪の表面が少し緩んだ2本目。会場につめかけた多くの日本人応援団から大声援が送られるなか、スタートを切る。急斜面で暴れる板を制御しながらもスピードに乗ってタイトに攻め、あと4人を残してトップに立った。

しかし、続く3選手が森井のタイムを上回る。3位の選手とのタイム差は、わずか0.25秒。森井は「今できる最大の滑りはできた」と言葉を絞り出した。

期待された金メダルはなかったが、滑降の銀メダルは自身通算5個目のメダルとなった。(※2006年トリノ大会の大回転で銀、バンクーバーの滑降で金、スーパー大回転で銅、ソチのスーパー大回転で銀)

初出場のソルトレーク大会から16年。いまなお世界のトップであり続け、4大会連続でメダルを手にしたことは、快挙といっていい。

それでも本人は満足せず、滑降の後もあえて「金メダル獲得」を公言してきた。そこには、応援してくれた人たちに金メダルで恩返しをしたいという思いがあったからだ。

「僕が速くなったのは、才能があったからじゃない。たくさんの方々に支えてもらったからです」と森井は言う。

チェアスキーは、シート、フレーム、サスペンションから構成される。森井は、以前からこのチェアスキーの開発に取り組んできたが、ソチ大会のあとアスリート雇用でトヨタ自動車に入社すると、トヨタの技術者たちの力を結集した世界最速の平昌モデルを完成させた。ミリ単位のセッティングが可能となり、森井は感覚とデータを照らし合わせながら、本番直前まで微調整を繰り返した。

優勝を逃したことで、「セッティングにこだわりすぎたと言われかねないのでは? 」という報道陣の質問に、森井はこう言い切った。

「ソチが終わって何も手を加えないで挑んでいたら、また、セッティングにこだわりすぎなければ、今回の滑降は表彰台に上がることはなかった。”チーム森井”のみなさんの技術、そして仲間と戦えたことが僕の誇りです」

思うような成績が残せなかったことは、「本当に残念だし、つらい」と森井。「自分に勝つことができたかといえば、”引き分け”くらいだと思います」と苦しい胸の内も明かす。

ただ、これまでの大会とは違う手ごたえも感じたという。

「ソチの時はこのままでは負けてしまう、でも何をしたらいいかわからない、というような焦りしかなかった。でも今回、たくさんのチャレンジができた充実感は、今までの大会と比べてはるかに高いし、次に進むために何をしなければならないかは明確に見えたので、すごく落ち着いた気持ちで大会を終えることができます」

前回ソチ大会で日本選手団が獲得した計6個のメダルのうち、金メダル3個を含む5個がアルペンスキーの男子座位によるものだった。今大会は雪質の影響もあり、前述の通り、メダルは森井の滑降の銀のみに終わった。

一方で、台頭してきたのは若い世代だ。スーパー大回転は「モリイは憧れの選手」と話す18歳のユロン・カンプシャー(オランダ)が制するなど、世界の勢力図が変わりつつある。

「正直、すごく焦りもあります。ただ、本当に細かな技術的なところを言うと、僕の方がまだ上回っていると思う。勝てない要因もある程度見えてきているので、今回得たデータを活かしながら、マテリアルも肉体も技術も、一から磨き上げて、次のパラリンピックに挑みたいですね」と、日本の37歳は前を向く。

今大会は5種目すべてにエントリーした森井は、2季連続でワールドカップの個人総合優勝を果たしたことからもわかるように、どの種目もまんべんなく強い。それが彼の魅力でもあるが、世界の頂点を狙うならば、種目を絞り専門性を追求するという手段もある。しかし、それでも森井はオールラウンダーにこだわる。

「バンクーバー大会まで監督だった故・松井貞彦さんから、チェアスキーヤーならばオールラウンダーで戦えることを教わりました。苦手種目を作ってしまうと得意種目まで足を引っ張ってしまうことがある、だから種目を絞らず、苦手種目を作らないようにと言われて育ってきた。一時期、回転が不得意だったけれど、トレーニングでワールドカップの種目別で優勝できるまでになり、みなさんにもオールラウンダーと呼んでもらえるスケールになった。だからこれからも、松井さんの言葉を守って競技できればと思っています」

不屈のチェアスキーヤー・森井大輝は、次の4年に向けてここからスタートを切る。

(取材・文:荒木美晴、写真:フォトサービス・ワン/植原義晴)

※この記事は、『Sportiva』からの転載です。