さまざまなドラマとともに、アイススレッジホッケー世界選手権はアメリカの優勝で幕を閉じた。これまでの世界の勢力図が大きく変化するなど、これまでにないほどに波乱の大会となった。
ライバルも驚いた韓国の急成長
優勝したアメリカ、3位のカナダとともに、「世界の4強」の一角だったノルウェーと日本が惨敗。パラリンピック5大会連続でメダルを獲得しているノルウェーは予選を全敗して5位に沈み、7位に終わった日本はまさかの来期のBプール降格が決定。
日本は1996年にはじめて世界選手権に参加して以来、史上最低の結果に終わった。アメリカも、予選では格下のエストニアとチェコにシュートアウトまで持ち込まれるなど苦戦した。
注目すべきは、準決勝進出を果たした韓国とチェコの躍進だ。いずれも、バンクーバーパラリンピックでは予選リーグ止まりだったが、今大会ではランキング上位国をのみ込む勢いを見せ、成長を証明した。
とくに決勝まで進んだ韓国は、この2年間でスピードと多彩な攻撃スタイルを身につけ、ライバルたちを驚かせた。
2018年のピョンチャンパラリンピック開催も控えている韓国がさらなる強化を図ることは容易に想像でき、今後も上位に食い込んでくることになるだろう。
改善の糸口が見えない日本
一方、その韓国に“アジアの雄”の座を奪われた日本は、攻守における完成度の低さが印象に残った。ソチパラリンピックに向けたチーム再構築の出遅れが、試合結果に反映された形だ。
日本は2年前のバンクーバーパラリンピック以前から取り組んできた、新しい選手の獲得が遅々として進んでいない。顔ぶれはほぼ同じで、平均年齢が当時最高齢の「36歳」からそのまま2歳上がっただけ。チーム内で競争原理が働かないのも、息切れの原因のひとつだ。
とはいえ、スレッジホッケーのジュニアチームもあるホッケー大国のアメリカやカナダは別として、同じく選手の年齢層が高いノルウェーやチェコ、イタリアも国内の選手の数は日本と同じ50名程度だといい、やはり世代交代には大きな課題を抱えている。日本だけが特別な環境ではないのだ。
もう一度、強い日本を見せるために
では、日本が抱える問題の本質とは何か。その問いに対して、多くの大会関係者がこう口をそろえた。
「シルバーメダル・ハングオーバー」
日本は、「2年前にバンクーバーで獲得した悲願の銀メダル獲得にいまだ酔っており、無気力状態に入っている」というのだ。
悔しいが、ライバルに明らかに差をつけられた現状を考えると、この言葉がある意味的確に表現していると感じざるを得ない。
もちろん、銀メダル獲得は間違いなく輝かしい功績だ。だが、スポーツである以上、頂点を目指すことが使命である。“挑戦者”である日本の、その「銀のプライド」は、余韻に浸るものではなく、さらなる上を目指すハングリーさに活かすべきものではないか。
そんなことは百も承知だと言われるだろうが、しかし日本はそれ以前の問題を抱えているように見えた。客観的に分析しても、チームとして機能していなかった。事実、複数の選手が、チーム内の重篤な「コミュニケーション不足」を認めているのである。
この結果は、偶然でも不運でもなく、現実として捉えなければならない。そこから目をそらさず、問題解決のために選手同士、あるいは選手とスタッフが正面からぶつかることができるかどうかが、日本復活のカギとなるのではないだろうか。
日本はいま、正念場を迎えている。だが、私はこれまでも何度も荒波にのまれ、失速と復調を繰り返し、這い上がってきた日本も知っている。だからこそ、闇の淵をさまようこれからの経験が、復活の糧になるはずだと信じている。
すべての試合が終わったあと、選手一人ひとりと面談し、続投を決めた中北浩仁監督は、早くも来シーズンのトライアウトの構想、Bプール世界選手権の対応をスタートさせている。これからのシーズンオフを考えると、ソチまでは実質1年半。再生に向けて、もう前を向いて歩みを進めるしかない。
いまこそ、心ひとつに。日本のプライドを見せてほしい。
(文/荒木美晴、撮影/吉村もと)