パラバドミントン — 2025/12/14 日曜日 at 9:31:32

接戦制し、西村が王座奪還! ラスト日本選手権の豊田も優勝

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実力拮抗の接戦となった男子WH1を制し、2年ぶりに優勝を果たした西村=長崎県立総合体育館

「第11回DAIHATSU 日本障がい者バドミントン選手権大会」のシングルスが13日、長崎県立総合体育館で開かれた。全国から約90人がエントリーし、各クラスで頂点を争った。

男子WH1は西村が王座返り咲き、梶原は6連覇

男子車いすWH1は3人がエントリー。総当たり戦を行い、前回準優勝の西村啓汰が江口翔一朗に21-17、21-15で、飯塚裕人に21-14、21-17で勝利し、優勝を果たした。両試合ともスコアの数字以上に拮抗した展開に。江口との試合は第1ゲームで10-14とリードされてから7連続得点で逆転に成功。相手のパワフルなプレーにも身上の粘りで拾ってつなぎ、勝機を見出した。11月のジャパン国際で敗れた飯塚にはリベンジした格好となり、西村は「内容も大事だけど、結果をすごく大事にしていた。両方勝つことができてよかった」と、王座奪還に胸を張った。

バドミントン経験者の江口は昨年が初出場。今年は国際大会デビューも果たした。世界のトップ選手と対戦したことで、強みだった戦略や攻撃力が「よりパラバドミントンにフィットした」といい、右肩上がりの成長曲線を描く。3年後のロサンゼルスパラリンピック出場を視野に、さらなるスケールアップを目指していく。

同WH2は梶原大暉と大山廉織が決勝に駒を進め、21-5、21-4で梶原が勝利。大会6連覇を達成した。昨年は全体的に参加者が少なく女子と混合で試合が行われたが、今年は初出場の選手を含めて6人がエントリー。梶原は「過去には松本(卓巳)選手と二人だけの時があったから、こうしてエントリーが増えたことが一番の収穫」と振り返った。グループリーグの初戦で梶原と対戦した初出場の17歳・松浦優斗は、「(両ゲームとも1得点に終わり)返球するので精一杯。まったく歯が立たなかった」と振り返りつつ、「これから国内大会の出場機会を増やしたり、いずれ国際大会を目標にするうえで、いい指標になった」と語った。

また、準優勝の大山は今季WH1からWH2にクラス変更となった。WH1の前はもともとWH2だったが、同じ車いすカテゴリーでも戦い方が変わってくるため、地道に研究と練習を重ねて世界ランキング1位もマークした。大山は「そのWH1で培った忍耐力で挑んだけれど、梶原選手には通用しなかった。彼に勝つには、武器が少なすぎた」と振り返る。その一方で、両クラスでプレーしたからこそ明確な課題と目標がはっきりしたといい、「この経験は財産になる」と話し、前を向いた。

女子はWH1のみ行われ、里見紗李奈が友寄星名をストレートで下して優勝した。

引退表明の豊田まみ子が最後の日本選手権で優勝

国内最後の公式戦となった日本選手権でライバルを下し、3大会ぶりに頂点に立った豊田

女子立位SU5+は4人がエントリー。今季をもって日本代表としての活動に一区切りつけることを表明している豊田まみ子が、前野琴羽にストレートで、亀山楓と杉野明子にそれぞれフルゲームで勝利。最後となる日本選手権で有終の美を飾った。痛めていた左脚ふくらはぎの不安を抱えながらも戦い抜き、勝利した瞬間は感極まった表情を見せた豊田。試合後は、「お世話になった方々への感謝の気持ちを、コートで表現できた。それから亀山選手や杉野選手ら、これまで幾度と戦ってくれた仲間たちがいなければ、私もここまで強くなりたいと思えなかったし、長く続けてこられたのはみんなのおかげ」と話し、涙をぬぐった。

「パリ大会で悔しい想いをして、1年ずつやっていこうとリスタートを切ったけれど、モチベーションが上がり切らなかった」と決断の理由を明かす豊田。今後はバドミントンを続けながら、選手発掘や競技普及に貢献していきたいと語り、新たなステージでの再出発を誓っていた。

同SL3は、河合紫乃と山田麻美の2人がエントリー。21-2、21-0で河合がストレート勝利した。同SL4は藤野遼が中村鈴を21-12、21-11で、澤田詩歩を21-17,21-15で退け、7年連続8度目の頂点に立った。

男子立位SL4決勝は、小川航輝が3連覇中の中村海斗を21-8、21-12で破り、初優勝を飾った。小川は昨年のジャパン国際で国際戦デビューを果たした高校3年生。これまでは中村に試合の主導権を握られる展開が多かったが、この日は冷静に流れを読んで駆け引きを制した。試合後の囲み取材では思いがこみ上げ、涙をぬぐいながら「親が支えてくれた。感謝したい」と絞り出した。同SL3決勝は、第1回大会から連続して藤原大輔と末永敏明のカードとなり、藤原が勝利をおさめて日本選手権で負けなしの大会10連覇を達成した。

来春から日体大で腕を磨く予定の金井。今後のさらなる活躍が期待される

同SU5+決勝も、昨年と同じ今井大湧とデフの馬場大地の対戦となり、今井が大会8連覇を決めた。同クラスには若手選手を含め10人がエントリー。先天性左手首欠損で高校3年の金井航はベスト8の成績をおさめた。今井とはグループリーグの初戦で対戦してストレートで敗れ、「ショットもフットワークもすべてが速く、攻略が難しかった」と話す。

小学校と中学校ではサッカーに取り組んでいたという金井。新しいスポーツがしたいと高校入学後にバドミントンを始め、高校2年の時にパラバドミントンの存在を知り、前回大会に初出場した。サッカーで培った瞬発力やフットワークを活かして急成長を遂げており、今季は日本代表として国際大会にも出場している。国内外のトップ選手と競ってレベルの差を痛感する一方で、ラリーが続くようになるなど手ごたえも感じており、「いかに自分の得意な形に持っていくかを考えて成長していきたい。いずれはパラリンピックに出場したい」と、言葉に力を込めた。

男子SH6は畠山が9連覇達成

9連覇を達成し、存在感を見せた畠山。パラバドミントンを含め、低身長の選手が活躍するスポーツの普及に力を入れる

低身長SH6の男子は、第一人者の畠山洋平がグループリーグから決勝まで1ゲームも失わない圧倒的な強さで頂点に立ち、大会9連覇を飾った。低身長クラスは競技人口が増えづらいことが長年の課題だったが、畠山自身が学校訪問など普及活動に尽力したこともあって少しずつ認知度が向上し、昨年に続いて今年も6人のエントリーに至った。畠山はドワーフサッカーの日本代表としても精力的に活動しており、「低身長の選手が活躍できるスポーツがもっと広まれば」と、力強く語った。女子は、杉本沙弥佳が曽田菜々子と鈴木優香をそれぞれフルゲームの接戦の末に下し、頂点に立った。

知的障害ID7は、男子は中野林太郎が2年連続7度目の優勝を飾った。ID大会覇者で日本選手権初優勝を狙った佐藤健太は、決勝の3ゲーム目の1-2となったところで脚を痛めて棄権した。女子は第1シードの内田典子が第2シードの千葉すずをフルゲームで下し、2年連続4度目Vを成し遂げた。

(取材・文・写真/荒木美晴)