パラバドミントン — 2024/12/16 月曜日 at 12:49:45

男子WH1の大山、女子SL3の河合ら、新チャンピオンが誕生

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男子WH1を初めて制した大山(左)と、決勝後に健闘を称える西村=静岡市中央体育館

「第10回DAIHATSU日本障がい者バドミントン選手権大会」が14日から2日間にわたり、静岡市中央体育館で開かれた。初出場選手からパリ2024パラリンピック金メダリストまで約100人がエントリーし、各クラスで頂点を争った。

群雄割拠の男子WH1は大山が初優勝

今大会の車いすクラスは男子と女子混合で実施した。男子WH1シングルスは、女子のパリ2024大会金メダリストの里見紗李奈と成長株の友寄星名が加わり、10人が参加。長くこのクラスをけん引した村山浩が第一戦を退き、前回王者の西村啓汰ら実力者たちがタイトル奪取に挑んだ。

決勝は2年連続同カードとなり、西村と大山廉織が対戦。21-10、21-7で大山が勝利し、新チャンピオンの座に就いた。大山は「これまで決勝であと一歩で負けることが多く、今大会は絶対に勝たなきゃという使命感がプレッシャーになっていた。そのなかで決勝は平常心で臨めて、西村選手がどこに居るのか、どこに打つのかがイメージできて対応できた。ミスもあったけれど、自分のなかでは100点かなと思う。すごく嬉しい」と笑顔を見せた。

大学3年の江口は初出場ながら決勝トーナメントに進出

新人選手も奮闘した。大学3年生の21歳・江口翔一朗は初出場ながら予選リーグで2勝を挙げ、決勝トーナメントに進出。準々決勝で里見に敗れたが、堂々の公式戦デビューを果たした。小学生でバドミントンを始め、進学した法政大学でもバドミントン部でプレーした。3年前にバイク事故で車いす生活になり、入院中にパラバドミントンの存在を知り、取り組み始めたという。「車いすが重たくて動かせないし、止まれないところからのスタート。部活に復帰して、2年間練習をしてきてやっと試合に出られるレベルになった。チェアワークが本当に難しいけれど、逆に面白い部分かなと思う」と話す。

今大会、パリ2024代表の長島や里見と試合をして、世界トップクラスのスピードやショットを体感した。「代表の方々がどれだけ練習をしているのか聞いているし、先輩方に追いつくのは大変だと改めて思った。高い壁があるからこそ、自分も真剣に取り組んでいきたいと思ったし、次のロスパラリンピックを目指して頑張りたい」と想いを語ってくれた。

なお、里見は予選リーグを突破し、決勝トーナメントに進出。準決勝で昨年王者の西村に、3位決定戦で長島理に敗れてベスト4だった。「練習では男子とも打っているけれど、試合となるとまた球が違ってくる。重い球に対応するのがしんどかったけれど、男子と公式戦を戦うのはいい経験になりました」と振り返った。また女子WH1も試合を行い、里見が友寄をストレートで下し、大会6連覇を達成した。

男子WH2は女子の河瀬優花も含めて4人がエントリー。総当たり戦を行い、2勝同士の最終戦でパリ2024大会金メダリストの梶原大暉が同じくパリ代表の松本卓巳を破り、大会5連覇を成し遂げた。同SL3の決勝は、第1回大会から連続して藤原大輔と末永敏明のカードに。試合は藤原がストレートで末永を下し、日本選手権で負けなしの9連覇を達成した。同SL4の決勝は、中村海斗が10月のジャパン国際で国際戦デビューを果たした小川航輝をストレートで下し、大会3連覇を果たした。

同SU5+は、上肢障害の選手に聴覚障害(デフ)の選手が加わり、12人がエントリー。昨年と同じく、パリ2024大会代表の今井大湧とデフの馬場大地が決勝に勝ち上がり、今井が21-15、21-15で馬場を下し、大会7連覇を達成した。今井は「馬場選手は、来年のデフリンピック東京大会を目指していて、昨年よりもパワーアップしていると感じた。自分も負けていられないし、まずは2年後の地元・愛知で開かれるアジアパラ競技大会で結果を残したい」と力強く話した。

男子ダブルスは、車いすWH1-WH2は梶原・西村組、SL3-SL4は広井拓・末永組、SU5+は今井・藤原組が優勝した。

女子SL3は河合、SL4は藤野、SU5+は杉野が制す

女子SL3を制した河合は「ロスで金メダルを獲ることが目標」と力強く話す

女子SL3シングルスは、パリ2024大会日本代表で4連覇中の伊藤則子、元日本代表の山田麻美、10月のジャパン国際で初の表彰台に上がった武田佳乃、河合紫乃の4人が出場。総当たり戦を行い、河合が全勝で頂点に輝いた。

河合は大学時代に学生日本一を2度経験した元S/Jリーガー。両股関節手術の後遺症で左下肢に麻痺が残り、車いすフェンシングの選手として活躍した後、壊死した左脚の大腿切断の手術を経て、義足をつけてパラバドミントンに取り組み始めた。バドミントンの試合は9年ぶり。「ブランクを取り戻すのが大変だったけれど、この舞台に立つことを目標にこの半年間やってきた。諦めずに続けてきてよかった」と話す。目標は2028年のロスパラリンピックでの金メダル獲得。「今日をスタートとして、世界の舞台を目指していきたい」と言葉に力を込めた。また、伊藤は「河合選手に負けたあと、2試合しっかりと勝ち切れたのは良かった」と振り返った。来年、地元・愛知で開かれるアジアパラ競技大会のアスリート委員も務めており、「大会を盛り上げる活動にも力を入れていきたい」と話し、前を向いた。

同SL4は、藤野遼が総当たり戦の最終戦で澤田詩歩をストレートで破り、6年連続7度目の頂点に立った。藤野は10月のジャパン国際で澤田に初めて敗れており、リベンジを果たした。同SU5+は上肢障害の3選手が出場。杉野明子がパリ2024大会代表の亀山楓と豊田まみ子を破り、2連覇を果たした。

男子SH6は初の決勝トーナメントを実施

男子SH6で優勝を果たした畠山(右)と準優勝の上野(撮影/植原義晴)

低身長SH6はこれまで参加人数が少なく、男女混合で試合を行うことが多かったが、今大会は男子は6人がエントリー。初めて予選リーグと決勝トーナメントを実施することとなった。試合は第一人者の畠山洋平が全試合ストレート勝ちして8連覇を成し遂げた。また、畠山と決勝を戦った上野智哉は「今大会は総当たり戦ではなく決勝トーナメントが行われて、初めてファイナルで自分の名前がコールされ、観客の前で挨拶した。試合には負けてしまったけれど、新鮮な気持ちといつもと違う緊張感があり、いい経験になった」と振り返った。

女子SH6は鈴木優香が日本選手権初出場で初優勝を遂げた。実は、息子の彪河も男子SH6に出場しており、母子出場を叶えた。「(3位の)息子よりも先に優勝できた」と笑い、「子育てもひと段落したので、国際大会の出場も目指し頑張っていきたい」と語った。ダブルスは男女混合で行われ2組が出場。上野・佐藤博紀組が杉本沙弥佳・畠山組に競り勝った。

ID7は男子は中野が6度目V、女子は内田が4大会ぶりの頂点に

日本選手権は知的障害ID7も実施。男子シングルスは最多の19人がエントリー。中野林太郎が決勝で田中和弥を21-18、21-18で退け、3大会ぶり6度目の優勝を果たした。女子シングルスは11人が出場し、内田典子が決勝で2連覇中の千葉すずを21-15、17-21、21-13のフルゲームの末に下し、4大会ぶり3度目の頂点に立った。

また、男子ダブルスは第1シードの中野・田中組が盤石の強さを発揮し、連覇を達成。女子ダブルスは千葉・花澤杏奈組が内田・大塚麻里奈組に16-21、21-13、21-11で逆転勝ちし、2連覇を成し遂げた。

(取材・文/荒木美晴、撮影/植原義晴)