スイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(長距離走)の3種目を連続で行うトライアスロン。自分の限界に挑戦する耐久競技で、鉄人レースとも呼ばれる。パラトライアスロンは障害の種類や程度によって6つのクラスに分けられ、そのなかで順位を決める。選手によっては義足で走ったり、バイクに乗れない選手はハンドサイクルを漕いだりと、障害に合わせた用具の使用や改良が認められている。
視覚障害クラスの場合は、選手の「目」となる健常者のガイドと一緒に競技を行う。スイムとランでは「ガイドロープ」で互いがつながり、バイクは2人乗りのタンデム車に乗る。安全にレースをするため、ガイドには的確な状況判断とそれを選手に伝える力が必要とされる。また、ルール上、ガイドは途中で交代できないため、選手をリードしながら完走するトライアスリートとしての高いスタミナと精神力も求められる。表彰台に上がれば、選手と一緒にガイドにもメダルが授与されるように、この視覚障害クラスは両者がまさに一心同体の関係で成り立っているのである。
14日、世界ランキング上位選手が集結する「2022ワールドパラトライアスロンシリーズ横浜大会」が、横浜市の山下公園周辺の特設会場で行われた。エリート男子の視覚障害PTVIクラスには海外勢を含む8人がエントリーし、日本の山田陽介(ジール)は自己最高の5位、樫木亮太(大阪府トライアスロン協会)は8位だった。
樫木は子どものころの病気が原因で、正面は見えず、周囲が少し見える弱視。横浜大会は年代別で順位を競うエイジグループで出場経験があり、昨年は優勝もしているが、エリートのレースは今回がはじめてだ。前日は“あこがれのレース”への出場を控えて「気持ちの高ぶりがあった」と、樫木は正直な胸の内を明かす。
第1種目のスイムを苦手としているが、昨年のエイジグループでもタッグを組んだガイドの石橋健志のリードもあって、最後まで同じペースで泳ぎきることができた。また、雨で路面が濡れて滑りやすいバイクも、体力的にきつくなる最終種目のランも、石橋のコントロールを信じて走り切った。レース後、「安心して臨めた」と樫木が話すと、石橋も「レベルの高いレースは初めてだったけれど、思いっきりできた」と応じ、互いの健闘をねぎらった。
レベルの高いレースを経験し、課題も明確になった。エイジグループでは先頭でゴールしたスイムも、今回は最下位。3種目とも上位の選手のスピードに圧倒され、総合タイムも7位の選手とは3分近く、1位の選手とは約9分の開きがある。だが、その差を実感することが、今後の飛躍の原動力になる。樫木が「石橋ガイドと一緒に練習できる時間は限られているが、準備も含めてしっかり考えて協力し合い、レベルアップしていきたい」と力強く話すと、隣にいた石橋も深々とうなずいていた。
なお、翌15日のエイジグループのレースにもエントリーした樫木は見事優勝し、連覇を達成。これからのさらなる活躍に期待したい。
(取材・文/荒木美晴、撮影/植原義晴)