「楽天オープン2019」の車いすの部は5日、男子のダブルス決勝戦が行われ、国枝慎吾(ユニクロ)/ステファン・オルソン(スウェーデン)組が、ドン・シュンジャン(中国)/イム・ホーウォン(韓国)組を6-0、6-0で下し、優勝を果たした。
国枝およびオルソンは、それぞれパラリンピックとグランドスラムのダブルスで優勝経験がある試合巧者。普段はふたりがペアを組むことは少ないが、この日の決勝はコミュニケーションもスムーズで、互いの高い技術が噛み合う完璧な内容。国枝は「プレーしていて、とても楽しかった」と話し、オルソンも「今日はとくに戦略面もうまくいって、満足している」と振り返り、笑顔を見せた。
シングルスもそれぞれ勝ち上がり、6日の決勝戦で対戦する。オルソンは「シンゴと対戦できるのは光栄。互いに弱点とストロングポイントを知り尽くした仲だから、決勝では今日よりもう少しレベルアップする必要があると思っている」と警戒する。国枝もまた、「今日のオルソン選手のダブルスの動きを見ていて、すごくキレがあるし調子が良さそうだなと。僕自身は、昨日より硬さが抜けて、少しずつ“らしさ”が出てきた。明日は今日より良くなると思うし、タフなゲームになるでしょう」と話し、気を引き締めていた。
日本勢では齋田悟司(シグマクシス)がシングルス準決勝に進出したが、そのオルソンにストレート負けを喫した。オルソンの正確なサーブとバックハンドのスライスに、場面ごとにポジションを変えながら対応したが、押し切られた。「いろいろトライしたけれど、もう少し落ち着いたプレーをすればよかった」と悔しさをにじませる。
東京2020パラリンピックの出場選手数は、男子は最大56名。上位40名が来年6月8日時点の世界ランキングで選考される。そして、各国の最大選手枠は男子は「4」。日本は国枝がアジアパラ競技大会で優勝してすでに内定を得ているため、実質「3」枠を国内のライバルたちが争うことになる。選手はひとつでもランキングを上げるため、世界ツアーを転戦している真っ最中だ。
東京で7大会目となるパラリンピック出場を目指す齋田も、今週開催のよりグレードの高いイタリアの大会などに出場するという選択肢があったが、この楽天オープンを選んだ。齋田は「健常のプロ選手と一緒の大会に参加できるのは、大きなモチベーションになるし、テニス選手として幸せなことだから」と決断した理由を語り、「今回はジュニアの小田(凱人)選手も参加したし、こういう大会を目指して若い選手が一生懸命練習することで競技レベルが上がり、強い日本が持続できるのだと思う」と続ける。
齋田がテニスを始めた14歳のころは、国内にジュニアのカテゴリーはなく、シニアの大会に出場して地道に力をつけた。そして日本を代表する選手のひとりとなり、多くの後輩たちの手本となった。世界を牽引する国枝も「尊敬しているプレーヤー」と折に触れ話すように、齋田は日本の車いすテニス界の礎を築いてきた。だからこそ、このムーブメントを車いすテニスの発展につなげたいと、誰より強く願うのだろう。「こうした大きい大会で、車いすテニスをアピールできる。楽天オープンさんには感謝しています」。47歳のレジェンドの言葉が、心に響いた。
(取材・文/荒木美晴、撮影/植原義晴)