「北九州2018ワールドパラパワーリフティングアジア‐オセアニアオープン選手権大会」は10日、競技3日目を迎え、男子72㎏級と80㎏級、女子61㎏級と67㎏級が行われた。
男子72㎏級
日本勢トップは4位入賞を果たした樋口健太郎(個人)。第1試技で150㎏を挙げると、続いて自己ベストタイとなる160㎏をマーク。第3試技でそれを上回る165㎏を成功させ、自身が持つ日本記録も塗り替えた。目指したのは、正確性。胸の止めの精度を意識して臨み、「練習通りの試技ができた」と振り返った。
バイクの交通事故で右大腿を切断したのが昨年9月。もともとジムでスポーツトレーナーをしていた経験もあり、すぐにパラパワーリフティングへの挑戦を決意。その年の12月、入院中ながら病院に特別に許可をもらい日本選手権に出場して以降、記録を更新し続けている。だが、男子72㎏級の上位選手は200㎏以上を軽々と持ち上げる階級。今回、初めての世界大会で彼らの試技を間近で見て、「刺激というよりも、悔しいという気持ち」が沸いてきた。「世界のトップ選手もそれほど身体が大きいわけではない。自分も技術を高めていければ」と前を向く。10月のアジアパラ競技大会では「170㎏」を狙う。
斉藤伸弘(個人)と田中翔悟(三菱重工高砂製作所)は、それぞれ146㎏を挙げ、ともに自己ベストを更新した。
3選手による熾烈なトップ争いを制したのは、リオパラリンピック銀メダリストで世界記録保持者(220㎏)のモシン・ラシール(イラク)。他の二人が失敗した217㎏を2本目で挙げ、第3試技では自己ベストにあと1㎏に迫る219㎏を完璧に成功させた。
男子80㎏級
日本期待の宇城元(順天堂大)は、146㎏からスタートしたが、3本とも失敗に終わった。その原因について「準備に失敗した」と多くは語らなかった宇城。2016年と今年春に手術した左ヒジの影響ではないといい、10月のアジアパラ競技大会も予定通り出場するつもりだ。186.5㎏の自己ベストを持つ宇城。アジアパラでのリベンジに期待したい。
金谷晃央(パワーハウス)と佐藤芳隆(パワーハウスつくば)は、いずれも135㎏を成功させ、そろって自己ベストを更新。リオパラリンピック銀メダルのグ・ハオフェイ(中国)が227㎏を挙げて優勝した。
女子61㎏級
パラリンピックで3つの金メダルと2つの銀メダルを獲得し、昨年の世界選手権55㎏級でも金メダルを獲得しているペレス・アマリア(メキシコ)。今大会は地域外のオープン参加で、この61㎏級に階級を変更してエントリー。第1試技で成功した123㎏は今季2位相当の好記録で、続いて安定した試技で128㎏、131㎏をマーク。オープン大会で1位となり、ガッツポーズを作ってみせた。
アマリアは「持てる力を示すことができ、東京パラリンピックへの道が明確になった。階級を変更してより高いレベルに到達しつつあるし、(この階級でも)パラリンピックでも勝ちたい」と力強くコメントした。
女子67㎏級
優勝はリオの金メダリストで昨年の世界選手権でも頂点に立ったタン・ユージャオ(中国)。自身が持つ世界記録を0.5㎏上回る139㎏に成功。特別試技の140㎏への挑戦は惜しくも失敗したが、来月のアジアパラ競技大会に向けては、その140㎏に「挑戦したい」と力強く語った。
昨年度のアスリート発掘事業「ジャパン・ライジングスター・プロジェクト」に参加し、競技を始めた高校1年生の森﨑可林(個人)にとって、初めての国際大会となった今大会。雰囲気にのまれ、第1試技こそ失敗したが、そこから高い修正力をみせ、第2試技で47㎏を成功。第3試技でも自己ベストを3㎏上回る50㎏を挙げ、笑顔を見せた。試合後、森﨑は「競技を始めて約1年。成長も感じているけれど、トップとの差があるので、これから練習していつか追いつきたい」と話した。
(取材・文/荒木美晴、写真/植原義晴)