初心者からベテランまで記録に挑戦するパラ・パワーリフティングの大会「第3回チャンレジカップ京都」が10月3日から2日間の日程で、京都府のサン・アビリティーズ城陽で開催された。国内では、今年2月の全日本選手権以来の公式戦で、新型コロナウイルス感染戦拡大防止のため、無観客で行われた。
【男子は3階級で日本記録更新】
無観客の今大会。ライブ配信の画面からもその気迫が伝わってきた。男子65㎏級の奥山一輝(サイデン化学)は、いきなり自己ベストを3㎏上回る144㎏からスタートすると、第2試技で148㎏、さらに第3試技で151㎏を成功させ、日本記録を一挙に10㎏塗り替えた。新型コロナで自粛生活を送った4月からの2カ月間は自宅にダンベルを用意し、トレーニングを続けていたという奥山。よい休息とも捉えていたが、のちに周囲から体が細くなったと指摘され、「火が付いた」。そこから再び体づくりに取り組み、今回の結果につなげた。4月に順天堂大を卒業し、社会人となった現在はパワーハウスで週2回の練習に励んでいるという奥山。「東京パラの延期は、自分にとっては良いチャンスをもらえたと考えている。この調子で伸ばしていきたい」と、力強く語った。
2月のマンチェスターW杯で銅メダルを獲得している男子49㎏級の西崎哲男(乃村工藝社)は、130㎏、134㎏を軽々と挙げ、第3試技では自身が持つ日本記録を更新する136㎏に成功。さらに、特別試技でも138㎏をマーク。4回の試技すべてで、3人の審判全員が成功の白旗をあげるという、まさに“パーフェクト”な会心の出来だった。
本来は第1試技の重量を132㎏で申請していたが、当日の調子を見て130㎏に変更したことを明かす。実はこれまで、重量的には余裕をもって臨んだはずの第1試技で失敗し、挽回していくパターンに陥っていた時期がある。「今までなら132㎏からスタートして失敗していたかもしれない。でも、今回は冷静に試合を運べた」と言うように、メンタル面の課題をひとつ突き抜けられたようだ。リオパラリンピックは男子54㎏級代表で出場。その後は、ジョン・エイモスコーチと相談し、減量を試みながら49㎏級出場の可能性を探っていた。昨年の世界選手権は54㎏級でエントリーしたが、その2カ月後のテストイベントでは49㎏級で銅メダルを獲得。東京パラリンピック出場にかかわるランキングでも上位につけており、「東京は49㎏級で出場を目指す」と話した。
男子88㎏級の大堂秀樹(SMBC日興証券)は、2月に左の大胸筋を痛め、現在はケガからの回復途中。それでも、3本の試技すべてを成功させ、堂々185㎏の記録を残したのはさすがだ。「日本人初の200㎏リフター」の男子107㎏級の中辻克仁(日鉄環境プラントソリューションズ)もまた、ケガに苦しんだひとり。2月のマンチェスターW杯では本番前にホテルの部屋で転倒し、切断している右足を粉砕骨折。現地の病院に搬送されたあと、緊急帰国を余儀なくされた。ただ、その直後に新型コロナの影響で出場予定だった大会が中止になり、また東京パラリンピックが延期されたことで、リハビリと再調整に取り組むことができたといい、「私にとって1年の延期はプラスになった」と言い切る。その言葉どおり、今回は193㎏を力強く挙げ、失敗したものの最終試技で203㎏にも挑戦し、復活を印象づけた。東京パラリンピックの出場資格基準(MQS)はすでに突破しており、今後はストレートインのラインとなるランキング8位以内を目指していく。
男子59㎏級は、光瀬智洋(シーズアスリート)が135㎏で連覇達成。男子97㎏級の馬島誠(日本オラクル)は、第2試技で157㎏に成功したが、3回目は165㎏に失敗。東京パラリンピックのMQSには届かなかったが練習では挙げている重量だといい、次戦でのリベンジを誓った。男子107㎏超級は松崎泰治が158㎏を挙げて、日本記録を更新した。
【女子は坂元が日本記録更新&MQS突破!】
女子では、79㎏級の坂元智香(メディカルケアアライアンスあおぞら病院)がすべての試技を成功させ臨んだ特別試技にも成功し、記録を77㎏まで伸ばした。自身が持つ日本記録を塗り替えたとともに、東京パラリンピックのMQSを突破し、「コロナでコンスタントに練習できない時期があったので、自分でも驚いている。誰が見ても成功と思えるメリハリをつけた試技を目指していきたい」と笑顔を見せた。
女子61㎏級の龍川崇子(EY Japan)も、67㎏に成功し、日本記録を更新。41㎏級の日本記録保持者の成毛美和(APRESIA Systems)は、45㎏級でエントリー。59㎏を挙げ、2階級制覇を達成した。
また今大会は、日本スポーツ協会によるアスリート発掘事業「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」(J-STARプロジェクト)の2期生、3期生が多く出場した。1期生の女子67㎏級の森﨑可林(立命館守山高)は、すでに世界選手権などにも出場して経験を積んでおり、関係者が尽力してきた競技のすそ野を広げる活動の成果が生まれつつある状況だ。自身も普及活動に関わる大堂は、「自分の88㎏級は普段、出場選手が少ないけれど、今大会は新人選手もエントリーしていた。コロナ禍での大会ながら出場を決めてくれて、ありがたい」と目を細めた。
◆東京パラリンピックへの道◆
東京パラリンピックでは、男女とも体重別に10階級が実施される。出場するには、今年4月までの指定大会に出場するなど条件を満たしたうえで、IPC公認大会での各階級の最低出場資格基準(MQS)の突破と、今年11月から来年6月27日までのIPC指定大会に出場することが必須。世界ランキングとは別に設定された東京パラランキングの男女各上位8名に、直接出場権が与えられる。開催国枠はなく、残りの20枠は各NPCから推薦のあった選手のなかからIPCおよびWPPOが選考する。
(取材・文/荒木美晴、写真提供:日本パラ・パワーリフティング連盟/撮影:西岡浩記)