水泳の100m背泳ぎ(S11=視覚障害クラス)に出場した秋山里奈(明治大学大学院)が、悲願の金メダルを獲得した。8年前のアテネパラリンピックの銀メダル以来、8年ぶりの表彰台。目標としていた、自身が持つ世界記録の更新はならなかったが、長い道のりの末にたどり着いた結果に、「素直に嬉しいです」と安どの表情を見せた。
「やっと本当の世界一になれた」
秋山はこの数年間を振り返り、率直な気持ちを口にした。
さかのぼること5年。2007年に「ジャパンパラリンピック水泳競技大会」のこの種目で、当時の世界記録を1秒以上上回るタイムを出した。北京パラリンピックに弾みがついたと、本人を含め誰もが感じていた。だが、その半月後、突然の出来事が彼女を襲う。北京では彼女のクラスの背泳ぎを実施種目から外すことがIPC(国際パラリンピック委員会)から通達されたのだ。
世界記録を更新したのに、パラリンピックではスタート台にすら立てない。それでは意味がない。アテネで届かなかった表彰台の真ん中で君が代を聞くことだけを目標に必死に練習を重ねてきただけに、絶望に近い大きなショックを受けた。結局、北京で出場した自由形では、50mで8位入賞、100mでは予選落ちという結果に終わった。
その後は深刻なスランプに苦しむ時期が続いた。2年前の世界選手権ではすべてを懸けて練習し、自信を持って臨んだ結果が2位。「もし、ロンドンで負けたら立ち直れない。どこまでチャレンジするべきなのか」。タイムも伸びず、大好きな水泳を続けることすら迷ったこの時期が、「一番つらかった」と振り返る。
スランプからの脱却
そんな彼女を奮起させたのが、ロンドンでの背泳ぎ種目の復活。やはり「パラリンピックで金メダルを取るまでやめられない」と、闘志に火がついた。今年7月に行われた「ジャパンパラ水泳競技大会」では、この2年、越えられなかった1分20秒台をついに切り、1分18秒59の世界新記録を樹立して優勝。何度もガッツポーズを作り、結果をかみしめた。同時に、「パラリンピックの本番で記録を出さないと意味がない」と気持ちを引き締め、ロンドンに臨んだ。
そのロンドンでは、初戦の100m自由形予選でスタート違反で失格になるなど、想定外の出来事にも遭遇したが、背泳ぎ決勝はしっかりとした自分の泳ぎでレースを制することができた。8年間、あこがれ続けた金メダル。「水泳を続けてきてよかったです」との言葉に実感がこもる。
秋山は現在、24歳。明治大学大学院法学研究科に在籍している。来年3月には卒業予定だが、「ロンドンの金しか頭になかった」ほど水泳へ情熱を傾けていたため、就職活動はまったくしていないという。就職先は民間企業を希望しているといい、「この金メダルを持って、就活しようかな」。そう言って、最後は報道陣にもとびきりの笑顔を見せてくれた。
(取材・文/荒木美晴)