ロンドン2012, 水泳 — 2012/9/4 火曜日 at 16:30:40

水泳・鈴木孝幸、連覇逃すも「後悔するところのないレース」

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表彰台の真ん中には上れなかったが、高め合ってきたライバルたちと互いの健闘を称えあった
(撮影/吉村もと)

鈴木孝幸(ゴールドウィン)がいた場所は、表彰台の真ん中ではなかった。しかし彼は、大観衆の声援に応え、何度もガッツポーズを作ってみせた。そこには、4年間の重圧から解放され、また4年間やりきったという充実感が漂っていた。

得意種目の50m平泳ぎ決勝。スタートで好反応を見せ、浮き上がるとトップにたったのは狙い通りの展開だった。中盤までリードを守るが、最後の数メートルで鈴木を含む3選手が混戦に。「自分の泳ぎだけをみて」ゴールにタッチし顔を上げると、左右のレーンの二人が先に着いているのが見えた。

優勝をさらったのは、オランダのMichael SCHOENMAKER。2位はシドニー・アテネ大会優勝のMiguel LUQUE(スペイン)。劇的な逆転レースに、SCHOENMAKERは感極まってプールサイドで涙を流して喜んだ。鈴木はそんな彼のもとへ行き、笑顔で「おめでとう」と声をかけた。

スタート台に上がり、左手をそっと胸に当てる――。アテネの頃から始めたレース前の儀式は、ここロンドンでも心を鎮めてくれた。

鈴木は北京パラリンピックのこの種目の王者である。北京の予選で出した世界記録の48秒49はいまだに破られていない。連覇を狙っていたし、周囲の期待も感じていた。だから勝利を逃したことが、悔しくないはずがない。だが、鈴木はこう言った。「SCHOENMAKERもLUQUEもいつも一緒に戦ってきた仲間。だから、僕も嬉しかった」。表彰式では、また頬を濡らすMichaelを鈴木とLUQUEが両側から称えた。「いい表彰式だった」。鈴木にも自然と笑みがこぼれた。

残りの種目につながる価値ある銅メダル

鈴木は生まれつき右腕の肘から先がなく、両脚は一部しかない。水泳を始めたのは6歳のとき。手足の長さが異なるため、まっすぐに泳ぐことも容易ではなかったが、泳ぎに工夫を重ねて自分の泳ぎを確立。17歳で初めてパラリンピックに出場した。

実はロンドンの直前まで、鈴木は自分の水泳人生のなかでも、もっとも深刻なスランプに陥っていた。2年前のオランダでの世界選手権のこの種目でLUQUEに敗れてからというもの、原因ははっきりしないが、理想とかけ離れたタイムしか出せなくなった。本来の泳ぎを取り戻すため、筋力の強化とより推進力を上げるフォームの改善に着手。なんとかロンドンに間に合わせた。

この日は、予選・決勝とも、目標のひとつにしていた50秒を切ることができなかった。それでも、決勝で出した50秒26は最近では一番のタイム。泳ぎを振り返り、「後悔するところのないレースだった」と言い切ったのは、今持っている力をすべて出し切れたからだろう。今大会、二つ目の銅メダルに満足している。その充足感は、残りの2種目、7日の50mバタフライ、8日の100m自由形のレースにきっとつながるはずだ。

(取材・文/荒木美晴)