車いすラグビー — 2023/6/28 水曜日 at 22:09:29

オアーHCが会見「世界で最高のチームを作れた」、AOC後に辞任

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記者会見で日本代表HCとして活動した6年間を振り返るオアーHC

車いすラグビー日本代表のケビン・オアーヘッドコーチ(HC)が、29日から始まる「三井不動産 2023 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ(AOC)」をもって退任することになった。28日には記者会見を開き、後任の岸光太郎氏と池透暢キャプテンが同席するなか、指揮を執ってきた6年間を振り返った。

アメリカ・アラバマ州出身のオアーHCは元陸上選手で、1988年ソウルパラリンピックでは、2種目で銅メダルを獲得。現役引退後は車いすラグビーに関わり、アメリカ代表やカナダ代表のHCを歴任。2017年に日本代表HCに就任した。着任翌年の2018年にはチームを初の世界選手権優勝に導き、その後も初の世界ランキング1位、東京2020パラリンピック銅メダル獲得などの結果を残してきた。来年のパリ2024パラリンピックも率いると思われていたが、これまでのように定期的にアラバマと日本を行き来して指導することが体力的に厳しくなったとして、退任の運びとなった。

オアーHCは会見で、「家族の一員のような環境を築けたことに感謝している。6年間、選手の育成と強化に関わり、世界でも最高のチームを作れたと思っている。昨年の世界選手権で、これだけ強いチームを作っておきながら負けてしまった(3位)時に、日本チームにどんな変化が必要なのかと考えると、ヘッドコーチの変化が必要なのかもしれないと感じた。(指揮官が変わるという)この変化が、このチームをより輝かせるきかっけになると思う」と、時折涙を見せながら語った。

記者会見に臨むオアーHC(左は土屋裕志通訳)、岸日本代表新HC、池キャプテン

北米のチームから日本へ。競技の歴史も取り組み方も文化も異なるなかで、常に日本と日本人に向き合ってきたオアーHC。そのなかで、自身のコーチとしての考え方にも変化があったといい、「日本は周囲の人たちを尊重する人間性が素晴らしいと思った。競技面では、北米の選手はそれぞれ強い意見を持っていて、コーチと対立することもあるが、日本代表は岸や池、島川(慎一)ら経験豊富な選手でも私の意見をスポンジのように吸収して、新しい知識としてくれる。練習で怒鳴る場面があったら、北米の選手は個人的な攻撃とみなすが、日本人は怒鳴ることにも意図があることをくみ取ってくれる。そんな違いがあるなかで、自分が日本でコーチをするというのは、夢のようだった」と話し、「そういった人間性を含めて日本のラグビー。レガシーとして引き継いで行ってほしい。辞任しても、自分の心は日本チームのままだ」と、締めくくった。

オアーHCの辞任については、4月末の代表合宿の際に本人から申し出があり、その後強化委員会や選手と話し合いを重ね、日本代表選手には5月中旬ごろのチームのオンラインミーティングで発表したという。キャプテンの池は「ケビンとやってきたことに自信を持っていたし、パリまで一緒にやって金メダルを獲ることを思い描きながら進んでいたので、夢じゃないかというくらいショックだった」と振り返る。また、「何か自分たちにできないか」と考え、「僕らが国内合宿をする時はケビンにはオンラインで指導してもらい、大会の時だけ合流してもらえないかという打診をする案も出た。でも、ヘッドコーチというのは生で状況を見ないと、熱量や本当に大切な部分が指導できない、というケビンが大切にしているものを尊重しないといけないという想いになった」と、葛藤した胸の内を明かした。

会見後にフォトセッションに臨んだオアーHC(中央)

後任HCとなる岸氏は、ロンドンとリオパラリンピックに出場し、昨年度末で日本代表強化指定選手を引退。「ケビンが築き上げた日本代表の戦略、熱い想いを継承し、その教えをベースに今まで以上に勝ちにこだわる強いチームへ革新していきたい」とコメントした。昨年秋には、育成選手主体のチームによる「SHIBUYA CUP」のアシスタントコーチを経験。それは、今回の後任の“伏線”では「まったくなかった」たといい、「打診があった際は、え、いいの!?という感じだった。ケビンにはパリまで行ってもらうと思っていたので、まさに寝耳に水だった。ケビンはすごい監督なので、その後任は非常に重いし、悩んだけれど、“信じて一緒にやっていこう”という言葉があり、引き受けることにした。パリで金メダルを目指して、突き進んでいきたい」と語り、前を向いた。

AOCは29日から7月2日まで東京体育館で開催される。来年のパリ2024パラリンピックの出場権「1枠」をかけて、世界ランキング3位の日本、同2位のオーストラリア、同8位のニュージーランド、同15位の韓国の4カ国が参加。総当たり戦を2回行い、上位2チームが最終日の決勝に臨む。

(取材・文・撮影/荒木美晴)