アイススレッジホッケーは、アイスホッケーとほぼ同じルールで行われるが、使用する用具は専用のものが使われる。その日本代表の用具全般の維持管理と開発に携わるのが、用具マネージャーの羽田野哲也さんだ。
選手が氷の上で乗る2本の刃がついた「スレッジ」や、氷の上の移動やシュート、パス交換などを行う「スティック」は、選手一人ひとりの障害や好みに合わせて製作したもの。そのすべてを、羽田野さんが担当している。
義肢装具士をしていた1997年ごろ、仕事で出入りしていた病院で、当時職員をしていた日本代表ゴールキーパーの永瀬充選手にバゲットシート(選手が座る部分)の製作依頼をされたことがきっかけで、スレッジホッケーの用具づくりに携わるようになった。その後、2002年のソルトレークシティパラリンピックの前年に、正式に代表の用具マネージャーに就任した。
当初は「競技のことも、用具の使われ方も知らなかった」と羽田野さん。未知の世界に戸惑いを感じたという。スレッジのバケットシート部分は「身体の型をとり、成形する」という義肢装具づくりと共通する部分があったが、スティック製作はまったくの未経験。海外製のスレッジ用スティックを取り寄せては、研究と試行錯誤を重ねる日々が続いた。そのおかげで、現在選手が使っている用具は当時と比べてかなり軽量化され、使いやすく改良されている。
スティックのパックを操るブレード部分は、堅さの異なる数種の木材、またはカーボンの複数層からできている。木製スティックは、カーボンに比べて柔らかくよく曲がり、そのしなりを利用してロングシュートを放つディフェンスの選手を中心に好まれているという。選手のこだわりもさまざまで、たとえばディフェンスの石田真彦選手のスティックは、よりしなやかに打つために、外側に薄い竹ひごが貼り付けられているそうだ。
外国では、同じ型でまとめて作られたスティックを使用する選手も多いが、日本人選手は完全にオーダーメード。幅やカーブの大きさは選手の好みによって異なり、ミリ単位で修正をかける。まさに職人技といえるその高い技術は、いまや海外のスレッジ選手から依頼の連絡が来るほど、世界的に評価されている。
氷上の格闘技と呼ばれるほど、激しい競技。ましてや、パラリンピックでは数試合を戦うなかでスレッジが破損したり、スティックが折れたりすることもある。そうした不測の事態に備えて、バンクーバーには愛用の工具とともに、選手1人につき3〜5本の予備スティックを持ち込んだ。
いつも口にする言葉は、「本番までにベストの道具を作ることが、僕の仕事」。
今大会も、万全の準備を整えて、選手を影から支えている。
(取材・文/荒木美晴、撮影/吉村もと)