【Writer's eye】逆襲のシナリオ 〜ソチへのラストチャンス(後編)〜

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チームスローガンに「RESPECT&CONNECT」を掲げ、"チームの絆"で最終予選に挑む(撮影/吉村もと)

前編で述べたように、パラリンピック出場枠は「8」。そのうちまだ「3」枠がまだ決まっていない。ソチへの道が、断たれたわけではない。降格後の今年の世界選手権 Bプール(長野)で日本は2位に入ったため、この3つのイスを争うソチパラリンピック最終予選には進めることになっているのだ。

IPC(国際パラリンピック委員会)によると、この最終予選は10月にイタリア・トリノで開催されることが決まった。参加国はAプール世界選手権の下位3チーム(イタリア、韓国、スウェーデン)、そしてBプール世界選手権の上位3チーム(ドイツ、日本、イギリス)の6カ国だ。

これまでの取材から、勢力図としてはイタリアが頭抜けていて、それに韓国が続く。スウェーデンは戦力を落としており、残りの1枠をスウェーデン、ドイツ、日本が争うのではないかと見ている。これはあくまで予想に過ぎないが、日本にとってひとつも気の抜けない厳しい戦いになることは間違いない。泣いても笑っても、この最終予選が文字通り”ソチへのラストチャンス”となる。

チームJAPANの“真の絆”

須藤は3月の世界選手権で攻守にわたり活躍し、チームを引っ張った

今年、日本代表は昨年よりも1カ月早い6月中旬にトライアウトを実施。このトライアウトと7月の合宿を取材した際は、トップスピードとパスワークを意識した攻撃的な練習を中心に行い、各セットの連携を細かく確認していた。

とくに7月は、取材した3日間を通して、リンク上のムードはいい緊張感に包まれていたように感じた。「本当に、最後のチャンス」。その“危機感”と“覚悟”が、チーム内で共有されているようだった。

トライアウトを終え、キャプテンとしてチームをけん引する須藤は、「最終予選は総当たりになるので、とにかく得点する力をつける必要がある」と気を引き締める。また、「合宿は日本人同士で動いているから失敗しても取り返せる。でも、一人ひとりが“なぜこの練習をするのか”を今一度考えて、それを指摘する選手がもっと増えないと」と話し、全員が“常に世界を意識すること”が成長のカギになるとしている。

心身両面から選手を支える佐々木千絵トレーナー。チームに不可欠な存在だ

代表を率いて11年目になる中北監督は、苦しい現状を打破しようと踏ん張り、チームを守ってきた選手やスタッフをねぎらう。そして、「初心に戻ろう」と、チームスローガンをバンクーバーシーズンに掲げていた「RESPECT&CONNECT」にした。

“本気”の表れだろうか、今後のスケジュールは超過密だ。来年の3月に迫ったパラリンピック本番までに、第14次までの代表強化合宿が予定されている。最終予選の直前にはヨーロッパ遠征も控えている。「交流試合を通して、勝てるシナリオを作っていきたい」と中北監督はビジョンを語る。

「喜び」も「どん底の苦悩」も経験したチームしか得られないもの。それは、チームの“真の絆”ではないだろうか。その“見えない力”を手に入れた時、勝利はおのずとやってくるのかもしれない。

正念場を迎えた日本代表。彼らが高い壁にぶつかり、何度心が折れそうになっても、そのたびに這い上がってきた姿を、私は知っている。きっと最後には、選手とスタッフの笑顔が咲くと、信じている。

(取材・文/荒木美晴、撮影/吉村もと)

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