「WPA公認第31回日本パラ陸上競技選手権大会」は6日、最終日を迎え、視覚障害T12の男子マラソンで東京パラリンピックの出場を確実にしている堀越信司(NTT西日本)が、男子10000mで32分23秒61のアジア新記録を樹立した。
9月6日、本来なら今日は東京パラリンピックの最終日。そして、マラソンが行われ、堀越は各国のライバルとしのぎを削るはずだった。だが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて状況は一変し、パラリンピックは延期に。堀越も5月までは競技場が使用できず、スピード練習ができなかった。だが、焦りはなかったといい、「1年延期になったけれど、来年の9月5日にレースがあることはわかっていたので、気持ちが切れることはなかった」と言い切る。
今日のレースは、内容に満足はしていないが、自信を持ってスタートラインに立つことができた。「これからしっかりと走り込みをして、万全の状態で東京パラを迎えたい。コロナ禍で大変な時だけれど、明るい未来が来ると信じてやっていけば必ず乗り越えられる。その明るい未来のひとつが、オリンピック・パラリンピックだと思っている」と、1年後の東京を見つめた。
毎回ハイレベルなレースが展開される男子100m(T64)。注目が集まるなか、ダイナミックな走りで接戦を制して会場を沸かせたのは、大学3年の大島健吾(名古屋学院大)。前アジア記録保持者の佐藤圭太(トヨタ自動車)、現アジア記録保持者の井谷俊介(SMBC日興証券)と競り合い、最後のひと伸びで先輩たちを抜き去った。記録は11秒93の自己ベスト。「11秒台が目標だったので達成して自信になったけれど、11秒8を切りたかった。まだまだです」と話し、前を向く。
生まれつき、左足首から先がない。高校時代はラグビー部に所属し、義足をつけてプレーしていた。高校2年の時に、選手発掘事業に参加してパラ陸上と出会い、大学入学後から競技を始めた。現在は、理学療法士や栄養士と連携をとり、肉体を改造中だ。食事管理と自粛期間中の柔軟や体幹トレーニングも功を奏し、フォームの安定性が増した。「前回までは100mの後半に崩れて抜かれていたけれど、今回は体幹を使って走ることができたし、バテにくくなった」と変化を実感している。
一方の井谷は、「中盤から失速している間に大島君に抜かれた。彼は去年一年間やってきたことの成果が出ている」と後輩の成長を評価しつつ、「惨敗です。負けて悔しい」と危機感をつのらせていた。
(取材・文/荒木美晴、撮影/植原義晴)