「第33回全日本視覚障害者柔道大会」が23日、講道館で行われた。実力者がそろった男子66㎏級。混戦が予想されるなか、18歳の大学1年・瀬戸勇次郎(福岡教育大)が頂点に立った。
瀬戸はふたつに分かれたリーグ戦を1位で通過。準決勝でリオパラリンピック男子60㎏級で銀メダルを獲得した42歳の廣瀬誠(愛知県立名古屋盲学校)を、決勝でリオの男子66㎏級銅メダリストで43歳の藤本聰(徳島視覚支援学校)を破っての初優勝。
「廣瀬さん、藤本さんというふたりのメダリストにはじめて勝てた」と、瀬戸は笑顔を見せた。
実はリーグ戦では、4選手のうち2選手が棄権し、瀬戸が畳に上がったのは一試合のみ。対して、もうひとつのリーグは4人が出場。しかも初戦で藤本と廣瀬との試合が6分を過ぎるゴールデンスコアの戦いになり、さらには勝利した藤本も、敗れた廣瀬も、次の2戦目もゴールデンスコアに突入していた。
「藤本さんはかなり体力を削られていた。そこを狙った」と決勝を振り返った瀬戸。序盤は藤本に右手を警戒され思うように技がかけられなかったが、徐々にパワーダウンする藤本の隙をついてポイントを奪うと、そのまま抑え込みに移行。最後は藤本が「参った」をして、勝負がついた。
昨年、藤本に準決勝で敗れており、今年6月の大会でも土を付けられた相手。リベンジを果たし、成長を実感する一方で、「今日はリーグ戦の差が大きかった。それに尽きる。次に対戦した時に必ず勝たなきゃいけない」と話し、気を引き締める。
瀬戸は先天性の視覚障害がある。4歳で柔道を始め、昨年7月の金鷲旗高校柔道大会を最後に、柔道部を引退。「それまでも何度も柔道をやめようと思ったけれど、その都度、周りの人たちの後押しがあって続けてきた。なんだかんだ言って、柔道が好きなんだと思います」
視覚障害者柔道は昨年、始めたばかりだ。組んだ状態から始まるルールに苦労しながらも、今春進学した大学では柔道部のコーチや仲間とともに稽古に励む。今大会の結果により、3月の国際大会と6月の世界選手権の日本代表候補になった。「これまで高校でも地区予選で敗退していた。はじめて少しだけ、世界を近くに感じられるようになった。強い気持ちを持って畳に上がれる柔道家になりたい」と瀬戸は語る。
日本の視覚障害者柔道界にさまざまなドラマを生み、歴史を彩ってきた男子66㎏級に吹いた新しい風。このまま新星が勢いを増すか、それとも世界を経験するベテラン勢が意地を見せるか、今後が楽しみだ。
(取材・文・撮影/荒木美晴)