1年後に迫るリオパラリンピックで、最もメダルに近い団体競技。それがウィルチェアー(車いす)ラグビーだ。
最もメダルに近い団体競技・車いすラグビー
夏季パラリンピックの正式競技であるウィルチェアーラグビーは、四肢まひ者などのために考案された、カナダ生まれの屋内競技だ。車いすごとぶつかるタックルが認められており、その激しさから、“MURDER BALL”(殺人ボール)と呼ばれるほど。コートでプレーする選手は4人。それぞれの障害レベルにより0.5〜3.5点の持ち点が与えられ、障害が軽い選手ほど持ち点が高い。4人の選手の合計が8点を超えてはならないルールがある(編集注:女性選手1人が入る場合、0.5点の追加ポイントが加わり合計8点以上も許可される。最大10点まで)。選手たちは、頑丈な競技用車いすを巧みに操作してゴールを狙う。ボールは丸い専用球を使用するが、ぶつかり合う、助け合う。その精神がまさにラグビーそのものなのである。
1996年に競技を始め、2004年のアテネパラリンピック(8位)に初出場を果たした日本は、10年の世界選手権(カナダ)で初めて銅メダルを獲得してから、メダルゲームの常連になり、12年ロンドンパラリンピックでは4位入賞。14年は世界選手権(デンマーク)4位、アジアパラ競技大会(韓国)1位という結果を残し、パラリンピックのメダルが見える世界ランキング4位に定着した。
外国人コーチの招へいでチーム力アップ
日本代表がまだ手にしていない、パラリンピックのメダル。その獲得に向けて、日本は、ロンドンパラリンピック後に、ウィルチェアーラグビーの母国であるカナダからアダム・フロスト氏をコーチとして招へいし、この競技の基礎をイチから学んだ。月1回の強化合宿で連携プレーをひたすら反復練習し、さまざまなシチュエーションを想定した動きを体に覚え込ませていった。さらに車いすバスケットボールでリオを目指していた池透暢ら、パラリンピックを目指す新戦力が加わったことで、ライン(コート上の4人の組み合わせ)のバリエーションも増加。現在は、選手としてパラリンピックに3大会出場した荻野晃一ヘッドコーチ(HC)が指揮を執り、それぞれのラインのブラッシュアップを図っている。
最強ラインを生かすため、セカンド・サードが重要
現在、日本で最も強い組み合わせとされる「ファーストライン」は、スピードのある池崎大輔(3.0)と、高さを生かしたパスが特徴の池(3.0)、素早い切り返しでチャンスメークするローポインターの若山英史(1.0)と今井友明(1.0)というラインアップだ。同じ持ち点の選手同士が切磋琢磨(せっさたくま)して底上げを図り、また、試合前夜には控えの選手を含めて自主的にミーティングを重ねて完成度を高めてきた。5月に行われた4カ国対抗戦でも、世界ランキング5位の英国オフェンス陣を完全に封じる圧倒的な力を見せている。
10月にリオパラリンピックの出場権を争うニュージーランドのアンドリュー・チトックHCも「個々の能力はもちろんのこと組織力が向上していて、プレーの精度も高い。対戦するたびに強くなっている」と舌を巻く。
その強化試合でパスカットを成功させるなど大活躍だった今井は、「出場時間がいつもより短く、疲労も少なかった。体もよく動き、集中してプレーできたことが良かった」と、その要因を振り返った。
日本は、セカンドライン、サードラインの強化を図っているところで、ファーストライン以外を積極的に登用している。得点力のあるファーストラインのメンバーをうまく休ませることで、重要な時間帯にその最強ラインの力がより発揮されることが証明された出来事だった。
「すべてはチームのため、メダルのため」
リオを1年後に控え、実戦経験を多く積むチームは、7月に米国トレーニングキャンプ、10月にロンドン遠征を行う。オーストラリア、カナダ、米国のトップ3の牙城を崩さなければ、リオではメダルを獲得できない。「リオで土をつけるために、これからの遠征で少しでもトップ3を苦しませたい」と、キャプテンの池は気合いを入れる。
そして、10月には、パラリンピック出場権を懸けたアジア・オセアニア選手権で強豪国を迎え撃つ。15年に開催された世界選手権の優勝により、すでにリオへの切符を獲得しているオーストラリアも来日する予定だ。アシスタントコーチの原田麻紀子氏は「日本が最大限の力を発揮した状態で、世界ランキング1位のオーストラリアとどこまで戦えるのか。そこで日本の現在地を知ることがリオに向けて重要なカギになる」と言い、メダルへの試金石になることを示唆した。
3強撃破に向けて一丸となるチームは、個人の意識も高い。セカンドラインの中核を担う仲里進(2.5)は、8月にオーストラリア国内リーグに参戦。世界ナンバーワンといわれるオーストラリアの(障がいの軽い)ハイポインターと対戦することで、海外選手にも当たり負けしない体をつくり、さらには(障がいの重い)ローポインターの特長を研究して日本代表チームに還元するつもりだと言う。
エース池崎は5月末に、さらなる高みを目指しカナダで武者修行も行った。4月には全米選手権にも出場しており、体力の消耗が激しい中で試合をこなす。8月には仲里と同様にオーストラリアのリーグ戦にも出場する。「視野を広くし、ローポインターにうまく指示ができる選手になりたい」と話し、「すべてはチームのため、メダルのため」と言い切る。
彼らが課題をクリアした先に、リオの表彰台がある。光り輝くメダルを目指すウィルチェアーラグビー日本代表に注目してほしい。
(取材・文/瀬長あすか)
※この記事は、『Sportsnavi』からの転載です。