パラアイスホッケーの世界選手権Aプールは4日、決勝が行われ、アメリカが延長戦の末、カナダを3-2で下して勝利し、2大会ぶりの頂点に立った。
世界選手権2連覇を狙うカナダと、平昌パラリンピック金メダルのアメリカのカード。両チームとも無得点で迎えた第2ピリオド、アメリカのペナルティによるパワープレーのチャンスでカナダが先制する。だがアメリカも即座に同点に追いつくと、第3ピリオドはそれぞれ1点を追加して、2-2で延長戦へと突入。最後はアメリカのFarmer Declanからのスルーパスを受けたRoybal Brodyが鮮やかに決め、劇的な逆転勝利をおさめた。
両チームが雌雄を決した平昌パラリンピックから1年。複雑かつ高度化する戦略を体現する、確かな技術とスピードを兼ね備えた彼らのプレーは、ますます磨きがかかり、見ている者の視線を釘付けにした。今後は国ぐるみのドーピング問題による資格停止処分が条件付きで解除されたロシアや、2022年北京パラリンピック開催国の中国などが参戦してくるが、世界にトップに君臨するアメリカとカナダがどのように立ちはだかるのか、楽しみだ。
また、決勝に先駆けて行われた3位決定戦は、初めてメダルマッチに臨む地元チェコと、平昌パラリンピック銅メダルの韓国が激突。第1ピリオド、守備からの攻撃を狙っていた韓国は、自陣から速攻をしかけ、鮮やかにパスをつないでJung Seung Hwanがゴール。第2ピリオド序盤に韓国が追加点を入れ2-0とリードを広げると、チェコも負けじとゴール前の混戦からKrupicka Zdenekがパックをねじ込み1点を返す。だが最終ピリオドは韓国がパックを保持する時間が長くなり、さらに2点を追加して、4-1で韓国が勝利した。
<大会総括>
平昌パラリンピックから1年。各国とも多少なりともメンバーの入れ替えがあり、それぞれ新体制で挑んだ今大会。チーム状況が気になるところだが、選手層の厚いアメリカとカナダの盤石さは変わらず。ハイレベルな戦術を体現する確かなアジリティとメンタリティの高さは健在で、世界のパラアイスホッケー界をさらなるステージへと押し上げている。平昌パラリンピックで銅メダルを獲得した韓国も、3位の座を守った。主軸の一部選手が引退したもののチーム力は落ちておらず、メダルチームのプライドを見た。
飛躍を遂げたのが開催国のチェコだ。2009年にAプールに昇格して以降、なかなかボトム4から抜けきれなかったが、今大会は予選リーグを全勝で勝ち上がると、準々決勝で強豪ノルウェーを撃破。準決勝ではアメリカに先制しながら敗れ、3位決定戦では韓国にも敗戦を喫したが、高い攻撃力と安定した守備で、トップ4に新風を吹き込んだ。なお、キャプテンのミハエル・ゲイルは7ゴール4アシストをマークし、大会MVPに選ばれている。
精彩を欠いたノルウェーはチェコと入れ替わるように順位を下げたが、今大会唯一の女子選手のレナ・シュローダーもスポットながら良い動きを見せ、最終戦のイタリア戦には勝利し、5位を死守する意地を見せた。イタリアは聞くところによると、国内競技人口が30人前後だといい、選手層という意味では日本よりも苦しい状況だ。それでも持ち前の組織力でグループリーグを勝ち上がり、Aプール残留を決めたのはさすがだ。
日本代表は既報のとおり、全敗で8位に終わった。Bプール降格が決まり、2022年北京パラリンピック出場するためには、このBプールで上位に入り、さらに最終予選を勝ちあがる必要がある。17年間代表を率いた中北浩仁監督は今シーズン終了をもって代表監督を勇退。つまり、今大会が最後の大会となった。新監督は6月の新シーズン開幕時に発表される予定で、新体制がどのようなリスタートを切るか、注目したい。
なお、今大会は運営が素晴らしく、選手の輸送や会場の動線、ボランティアやセキュリティの配置、体験ブースの設置など綿密に計画されていた。何よりアイスホッケーを愛する市民が有料チケットを買い求めて観戦し、とくにチェコ戦では大声援で選手を後押しする姿に感激した。チェコの選手は3位決定戦で敗戦後、涙を流す者もいたが、最後は満員の観客に笑顔で手を振り、声援への感謝の気持ちを送っていた。
<最終順位>
1位 アメリカ
2位 カナダ
3位 韓国
4位 チェコ
5位 ノルウェー
6位 イタリア
7位 スウェーデン
8位 日本
※7位のスウェーデン、8位の日本はBプールに降格
※後日、関連記事を公開予定です!
(取材・文・撮影/荒木美晴)