カナダ・バンクーバーで開催されているアイススレッジホッケーカナダカップに出場している日本代表は現地時間の1日、三位決定戦でドイツと対戦し、3-2で勝利した。終盤まで無得点、相手に2点のリードを許す厳しい戦いになったが、最終ピリオドで遠藤隆行、須藤悟のディフェンス勢の得点で同点に追いつき、延長戦に突入。それでも決着がつかず、ゴールキーパーとの1対1でシュートを打つシュートオフにもつれ込み、日本は二人目の上原大祐(FW)が決めて試合終了。日本が長く、苦しい試合を制し、見事銅メダルを獲得した。決勝戦のカナダ対アメリカもシュートオフとなり、カナダが優勝した。
泣いても笑っても最終戦。両チームとも連日の激闘で疲労はピークを迎えているものの、第1ピリオドから激しいダンプ&チェイスからの攻防が繰り広げられた。日本としても前半で試合を決めておきたい状況であったが、しかし2分49秒、ドイツに一瞬の隙をつかれターンオーバーから先制点を与えてしまう。ドイツは、この大会で3ゴール3アシストを決めている日本のエース・上原を徹底的にマンツーマンマーク。日本は相手陣地に攻め込むものの、ドイツの執拗な作戦に手を焼き、決定的な得点チャンスが得られず、第2ピリオドにはさらに追加点を挙げられる苦しい展開に追い込まれた。
2点のビハインド出迎えた最終ピリオド。守備を固めるドイツに対し、何とか得点してペースをつかみたい日本は怒涛のシュートラッシュを見せる。しかし、ここでもゴールに結びつかずに、時間だけが過ぎていった。ところが、終盤の12分34秒、ここまで抑えられてきた上原がゴール前で意地のシュートを放ち、大きく逆サイドに跳ねたリバウンドを遠藤が飛び込んで、1点を返した。
時間がない日本は、残り時間約1分でアタッキングゾーン右サイドでフェイスオフをとった後、タイムアウト。そこからゴールキーパーを上げた6人攻撃を仕掛け、必至にパックを追った。ドイツに守護神のいないゴールにパックを流されるなど、ヒヤリとする場面もあったが、14分9秒にフェイスオフで高橋和廣(FW)から吉川守(FW)へとパックをつなぎ、さらにパスを受けた須藤がゴール前の混戦にめがけてスライドシュート。それが相手キーパーの足元をすり抜け得点に。「神がかり的」な同点弾に、チームも会場も沸いた。
3分間の休憩の後、10分間の4-4のサドンデスオーバータイムに突入。両チームとも3本ずつシュートを放つが、決定打とならず終了。勝負の行方は、シュートアウトに託された。
日本のゴールキーパーは、連日好セーブを連発している守護神・永瀬充。まず、ドイツの一人目がパックを持ち込み正面やや左からのスライドシュートを、永瀬ががっちりブレードで防ぐ。次に、日本の一人目は高橋。同じく左サイドから持ち込み正面でスライドを打つも、ゴールならず失敗。ドイツ二人目は、枠をとらえられず失敗。そして、日本の2人目は上原。高橋同様、左サイドから持ち込み、正面左から今度は上を狙って強烈なシュート。そのパックは上のバーを直撃し、真下に落下。レフェリーがノーゴールをコールしようとしたその瞬間、真下に落ちたパックは吸い込まれるようにゴールの中へ。これが得点となり、日本優勢に。
これを守れば、日本の勝利が決まる運命の一瞬。ドイツの3人目は右サイドからパックを運びこみ、正面やや右から強烈なシュートを放つ。偶然か必然か、パックは上原のそれとまさに同じ軌道を描いた。その瞬間、『キン!』という、独特の高い音がリンクに響く。固唾をのんで見守る仲間の祈りが届いたのか、今度はパックは大きく上に跳ね上がった。その行方を見届けたコンマ数秒ののち、日本ベンチに絶叫とガッツポーズが乱れ飛んだ。
わずか数センチの差で勝利を手にした日本。先攻逃げ切りタイプの日本が、苦しい状況のなかでも集中力を切らさずに逆転したことは、これまでの強化練習の成果といえるだろう。また、バンクバーパラリンピック出場国を決める5月の世界選手権でも、同じグループで戦うことが決まっているドイツを相手に、2連勝したことは大きな意味を持つ。
日本代表の青木栄広コーチは、「私たちはこの結果に決して満足はしていない。しかし、バンクーバーに続く長い階段の次のステップを力強く踏みしめることが出来たと、胸を張って言える」と話している。
試合結果
・ドイツ 1-1-0=2
・日本 0-0-2=3(シュートオフ) 遠藤隆行(A:上原大祐)、須藤悟(A:吉川守、高橋和廣)
シュートオフ
ドイツ: Sven Stumpe (no goal); Gerd Bleidorn (no goal); Frank Rennhack (no goal)
日本: 高橋和廣 (no goal); 上原大祐 (goal)
(原稿・写真提供/青木栄広日本代表コーチ、編集/荒木美晴)